はじめに
認知症の行動・心理症状(BPSD)への対応で、「リスペリドンを頓服で」という処方はよく見かけます。
しかし、その使い方については医療職・介護職のあいだで意見が分かれやすく、
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暴れたらすぐ飲ませる?
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そわそわしてきたら早めに使う?
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どの程度で判断する?
といった悩みが生まれがちです。
本記事では、BPSDに対するリスペリドン頓用の適切な使い方を、
ガイドライン・薬物動態(PK)・現場知見の3つの視点から整理します。
リスペリドン頓用、“遅すぎ問題”とは?
BPSDでリスペリドンの頓用が使われる代表的な症状には、「興奮」「攻撃性」「暴言・暴力」などがあります。
しかし、実際に現場でよくあるのが、薬を飲ませた頃にはもう騒ぎが終わっているというケース。
これは、「タイミングのずれ」が原因であることが少なくありません。
特に在宅や施設では、投与の判断が家族や介護スタッフに委ねられることも多く、“いつ使うか”の共通認識が欠けていると、薬の効果が発揮されにくくなってしまいます。
ガイドラインの立場を整理する
厚生労働省の「かかりつけ医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン(第2版)」では、次のように述べられています。
向精神薬は非薬物的介入で対応できない場合に限り、行動の出現パターンを踏まえた最小限の使用を原則とする。
この記載は、“あらかじめ行動の傾向を把握し、必要最小限で使いましょう”という方針を示しています。
ただし、「暴れそうになったら使うべき」といった具体的な発現タイミングや症状の指標は明示されていません。
また、日本老年精神医学会や日本医師会の公式資料においても、
「頓用の使用タイミング」に関しては明確な定義はありません。
そのため、現場での経験に基づく対応が求められる領域となっています。
PK(薬物動態)から考える頓用タイミング
ここで注目したいのが、リスペリドンの薬理的な性質(PK)です。 リスペリドンは、内服後およそ1時間で血中濃度がピークに達します。 さらに、その活性代謝物(9-ヒドロキシリスペリドン)は20時間近く作用が続くとされています。
つまり、リスペリドンは「即効性の薬」ではなく、効き始めにある程度の時間を要する薬です。
「今、まさに興奮している」という状況に投与しても、効果が出る頃にはすでに落ち着いてしまっている可能性があります。
このPK的な特徴をふまえると、“予兆”の段階での投与こそ、薬効を発揮しやすいという実践感覚は理にかなっています。
現場ではどう判断しているのか?
介護や看護の現場では、薬の効果を最大限に活かすために、その人ならではの“荒れる前兆”を察知して投与するという対応が取られていることがあります。
たとえば、次のようなサインがきっかけになることがあります:
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そわそわと落ち着きがない
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同じことを何度も尋ねる
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言葉づかいが荒くなる
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物を探し続ける
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徘徊が始まる
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顔つきが険しくなる
このような「その人なりのいつものパターン」を把握し、“そろそろ来そう”という瞬間に使うことで、
頓用リスペリドンの効果がうまくマッチしやすくなります。
薬剤師としてできること
薬剤師は、頓用指示の意図や薬の特性をふまえ、チームに共有する役割を担えます。
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医師の処方意図と現場の使用タイミングにずれがないか確認する
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家族やスタッフに「この薬は“すぐ効く”わけではない」ことを説明する
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服薬記録や行動の記録をふまえて、「使いどき」の傾向をチームで共有する
このように、“適切なタイミング”という共通認識をつくることは、リスクの最小化にもつながります。
まとめ
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リスペリドン頓用は「暴れたら使う」では遅いことがある
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ガイドラインでは、「行動の出現パターンをふまえた最小限の使用」が基本
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リスペリドンは効き始めまで時間がかかるため、「予兆」での投与が理にかなっている
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現場では“その人なりのパターン”を把握して判断している
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薬剤師は、現場との共通認識づくりに積極的に関与できる
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