エビリファイからレキサルティへ。違い、知ってる?

エビリファイからレキサルティへ。違い、知ってる? 統合失調症
エビリファイからレキサルティへ。違い、知ってる?

副題:部分作動薬としての穏やかさは、なぜ現場で支持されるのか?


はじめに ― この記事で分かること

ブレクスピプラゾール(レキサルティ)の開発背景から、アリピプラゾールとの違い、そしてBPSDへの適応まで──。薬の“穏やかさ”がどう設計されたのかを追いながら、現場での使われ方と薬剤師の介入視点まで一気にたどります。


読者への問いかけ

「アリピプラゾールとの違いって、本当に説明できる?」

「レキサルティって、ただ“穏やかになったエビリファイ”じゃないの?」

こんな疑問を持ったあなたへ。この記事では、“部分作動薬”という薬の設計思想の裏側と、現場での処方意図を深く掘り下げます。


ブレクスピプラゾール(レキサルティ)の誕生背景

2015年、米国で承認されたブレクスピプラゾールは、3年後の2018年に日本に上陸します。大塚製薬とデンマークのルンドベック社が共同で開発したこの薬は、「エビリファイ(アリピプラゾール)」の後継的存在として大きな期待を集めました。

アリピプラゾールは、D2受容体部分作動薬という新たな作用機序で、抗精神病薬の世界を塗り替えた立役者です。ところが、臨床現場では「元気になりすぎる」「ソワソワして眠れない」といった声も目立ちました。

その“アクティベーション(過覚醒)”というジレンマに対する解答として、“より穏やかに”“より安定的に”を目指して開発されたのが、ブレクスピプラゾールというわけです。


部分作動薬とは? そのメリットと限界

部分作動薬とは、「刺激しすぎず、遮断しすぎず」、ちょうどいい加減で受容体に作用する薬です。ドパミンが多すぎる部位では刺激を抑え、少ない部位ではわずかに補う。このスタビライザー的な作用こそが、部分作動薬の魅力です。

アリピプラゾールはD2受容体を約60%刺激し、ブレクスピプラゾールはさらに控えめな約40%。これは、ドパミン完全作動薬(100%刺激)や、リスペリドンのような拮抗薬(0%)と明確に一線を画す数値です。

この性質により、陽性症状だけでなく、陰性症状や抑うつ、さらには認知機能にも働きかける可能性があり、錐体外路症状(EPS)や高プロラクチン血症のリスクも低いとされています。気分障害やBPSDといった、従来の抗精神病薬では手が届きにくかった症状にも、部分作動薬ならではの応用が期待されているのです。


アリピプラゾールの“刺激しすぎ問題” ― アクティベーションの正体

理論上は“ちょうどよく働く”はずのアリピプラゾール。しかし、脳内のドパミン分布は決して均質ではなく、部位によって濃度にばらつきがあります。

アリピプラゾールはD2受容体への親和性が高く、占有率は80〜90%を超えます。そのため、本来ドパミンが少ない領域でも、60%程度の刺激が加わってしまうのです。

この“過剰な刺激”によって現れるのが、アクティベーションと呼ばれる副作用です。「落ち着かせたいのに、逆にソワソワする」「夜間に興奮して徘徊が増えた」「怒りっぽくなった」「眠れない」といった訴えは、抑制ではなく刺激が強すぎた結果とも言えるのです。


ブレクスピプラゾールの「刺激しすぎない」設計

こうした問題を回避するため、ブレクスピプラゾールは設計段階から“控えめな刺激”を意識しています。D2受容体への刺激力は40%前後に抑えられ、セロトニン系に対する作用(5-HT1A受容体作動、5-HT2A受容体拮抗)を強化することで、精神安定効果や抑うつへのアプローチも併せ持たせました。

結果として、過覚醒を抑えながらも、不安や抑うつに穏やかに作用する──そんな設計思想が貫かれています。アリピプラゾールで不穏が出たケースへの“代替薬”として選ばれる背景には、こうした“刺激しすぎない”バランスがあるのです。


BPSDへの保険適応 ― 初の抗精神病薬としての意義

2021年、ブレクスピプラゾールは日本で次のような保険適応を取得します。

「アルツハイマー型認知症に伴う、焦燥感・易刺激性・興奮に起因する、過活動または攻撃的言動」

これは、日本国内で初めて、BPSD(認知症に伴う行動・心理症状)に対して明確な適応を持った抗精神病薬となった瞬間でした。現場での処方根拠が一気に明確化され、医師や薬剤師にとっては“選べる理由がある”という安心感にもつながりました。

ガイドライン上では、抗精神病薬の使用には今なお慎重な姿勢が求められますが、それでも「どうしても必要なときに、納得して選べる薬」という位置づけが与えられたことの意義は小さくありません。


現場での「今」の選ばれ方と薬剤師の役割

実際の在宅や高齢者施設では、ブレクスピプラゾールはこういった“調整の薬”として活用されています。アリピプラゾールでは“元気すぎた”患者に、リスペリドンでは“眠りすぎた”患者に、クエチアピンでは“昼夜逆転が起きた”ケースに──。

このように、他の薬では「強すぎた」「合わなかった」という場面で、“ちょうどいい穏やかさ”を求めて使われているのが現実です。

ただし、どれだけ穏やかに設計されていても、副作用リスクがゼロになるわけではありません。過鎮静、ふらつき、転倒、摂食低下──。

だからこそ、薬剤師には「生活のなかの微調整」に目を向ける力が求められます。日中の活動性が上がったかどうか、夜間の睡眠が改善されたか、食事量や水分摂取に変化はないか。医師の処方意図と薬の設計思想をふまえて、“その薬が、今、その人に合っているのか”を生活の文脈から見つめていく視点が欠かせません。


まとめ ― この記事のポイント

ブレクスピプラゾールは、アリピプラゾールの“刺激しすぎ”問題に応える形で生まれた抗精神病薬です。その設計には、部分作動薬としての穏やかな作用と、セロトニン系への多面的アプローチが盛り込まれています。

BPSDに対する日本初の保険適応を獲得したこの薬は、在宅や施設といった“現場”において、「穏やかさ」を求める処方の中核を担いつつあります。

薬剤師に求められるのは、“なぜその薬が選ばれたのか”を語れること。そして、目の前の患者さんの“ちょっとした変化”に気づけること。それが、薬を通じて人を支えるプロフェッショナルの役割なのです。

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※本記事は薬学生および薬剤師など、医療関係者を対象とした教育・学術目的の情報提供です。医薬品の販売促進を目的としたものではありません。
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