DPP-4阻害薬の立ち位置分かる? ― 内服でインクレチン治療

糖尿病
「なぜ今も“使いやすい選択肢”として残り続けているのか?」

はじめに ― この記事で分かること

  • DPP-4阻害薬が誕生した背景と開発の物語

  • GLP-1受容体作動薬との関係と治療戦略の変遷

  • 現在の糖尿病治療ガイドラインでの立ち位置と使われ続けている理由


読者への問いかけ

「DPP-4阻害薬って、今の糖尿病治療ではどんな立ち位置なの?」
「GLP-1受容体作動薬やSGLT2阻害薬は盛り上がっているけど、DPP-4阻害薬はどうなの?」


背景と誕生の経緯 ― メトホルミン時代の“次の一手”を探して

1990年代後半、UKPDS(United Kingdom Prospective Diabetes Study)によって、メトホルミンの重要性が確立されました。しかし、すぐに次の壁が現場を悩ませ始めました。メトホルミン単独で血糖管理が難しくなる患者が多かったのです。

当時の追加治療薬は、スルホニル尿素薬(SU薬)やインスリンでした。しかし、いずれも低血糖のリスクや体重増加といった代償を伴い、医師たちは「これ以上、患者に負担を強いる治療を続けて良いのか」と葛藤していました。

そのような状況で注目されたのがインクレチンの作用です。特にGLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)は、食後に血糖依存的にインスリン分泌を促し、グルカゴン分泌を抑制する理想的なホルモンでした。しかし、生体内では酵素DPP-4によってすぐに分解されてしまうため、治療への応用は困難とされていました。

この問題を解決するため、「GLP-1そのものを補うのではなく、GLP-1を分解するDPP-4を阻害すればよい」というシンプルで革新的なアイデアが生まれました。

こうして開発されたのがDPP-4阻害薬です。2006年、米国でシタグリプチンが登場し、2009年には日本でも承認されました。糖尿病治療に新たな扉が開かれた瞬間でした。


臨床で評価されたポイント ― 「内服できるインクレチン治療」という革命

DPP-4阻害薬は、医師と患者にとってまさに救いの薬でした。それまで糖尿病治療薬を追加するたびに、低血糖リスクや体重増加という「トレードオフ」が避けられませんでした。しかし、DPP-4阻害薬はそのトレードオフを大きく緩和したのです。

血糖をしっかりと低下させつつ、低血糖のリスクが非常に低く、体重への悪影響も最小限でした。さらに、内服薬という手軽な投与方法が多くの患者に歓迎されました。腎機能障害のある患者や高齢者にも安全に使用できたことから、臨床現場での使い勝手は抜群でした。

ちょうど同じ時期に、注射薬である**GLP-1受容体作動薬(エキセナチド)**も登場していましたが、内服できるDPP-4阻害薬の利便性には及ばず、まずはDPP-4阻害薬がインクレチン治療の主流として広がりました。


ガイドラインでの立ち位置 ― 血糖コントロールの“便利な相棒”からの進化と限界

2010年代、DPP-4阻害薬はメトホルミンに次ぐ第二選択薬として糖尿病治療ガイドラインで推奨され、多くの医師が日常診療でこの薬を選択しました。一方、GLP-1受容体作動薬は将来性が期待されつつも、注射という制約やコストの問題が普及の妨げとなっていました。

しかし、2015年以降、糖尿病治療戦略の評価基準が大きく変化します。ただ「血糖を下げる」だけでは不十分とされ、心血管疾患や腎疾患に対するアウトカム改善効果が治療選択の重要な基準となりました。

GLP-1受容体作動薬やSGLT2阻害薬は、主要な心血管イベントや腎機能悪化の抑制を**心血管アウトカム試験(CVOT)**で証明しました。ガイドラインでも、心血管リスクや腎疾患リスクの高い患者にはこれらの薬剤が第一選択とされるようになりました。

一方、DPP-4阻害薬も複数のCVOTが行われましたが、結果は「心血管安全性の非劣性」までにとどまりました。つまり「悪くはないが、他薬より優れているとも言えない」という評価だったのです。


現場での「今」の選ばれ方 ― 便利さと安全性で生き残ったDPP-4阻害薬

アウトカム重視の新時代において、DPP-4阻害薬は主役の座を譲りました。しかし、完全に消えることはありませんでした。

現在も高齢患者低血糖リスクが高い患者に対して、体重への影響が少なく、腎機能や年齢に応じた柔軟な用量調整が可能な薬剤として広く使用されています。SGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬が適さない場合や、コスト面、患者の希望を考慮した場合には、**「使いやすい相棒」**として選ばれ続けています。

そして何より、インクレチン治療を内服で可能にした革命薬としての歴史的な功績は、今も評価され続けています。


まとめ ― この記事のポイント

  • DPP-4阻害薬はメトホルミンの次の一手として2009年に日本で承認されました

  • 内因性インクレチン作用を内服薬で実現し、血糖低下と低血糖リスクの低さ、体重への悪影響の少なさで高く評価されました

  • 現在はアウトカム改善を示したGLP-1受容体作動薬やSGLT2阻害薬に主役の座を譲りましたが、高齢者や低血糖リスクの高い患者で使われ続けています

  • GLP-1受容体作動薬とともにインクレチン治療の礎を築き、現代治療にその影響を残しています

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※本記事は薬学生および薬剤師など、医療関係者を対象とした教育・学術目的の情報提供です。医薬品の販売促進を目的としたものではありません。
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