GLP-1を超えた“ダブルアゴニスト”って聞いてない!
はじめに ― この記事で分かること
-
チルゼパチドの正体と登場の背景
-
GLP-1作動薬との決定的な違い
-
糖尿病と肥満の“ハザマ”で活躍する新しい戦略薬
-
薬剤師としてどう向き合うべきか
読者への問いかけ
「チルゼパチドって最近よく聞くけど、結局何が新しいの?」
「GLP-1の新作? それとも別物?」
「話題になってるけど、現場でどう使われてるの?」
そう思ったあなたに向けて、この記事では、ざっくり・でもしっかりとチルゼパチドの“凄さ”を紐解いていきます。
GLP-1の時代に現れた“もう一つの選択肢”
GLP-1作動薬は、ここ10年で一気に糖尿病治療の主役級に躍り出た薬です。
バイエッタ(エキセナチド)やビクトーザ(リラグルチド)といった薬が出てきたころ、「インクレチン? なにそれ?」だった時代を思い出す人もいるかもしれません。
そんな中、2022年。
アメリカFDAが新たに承認したのがチルゼパチド(tirzepatide)。
日本では2023年に「マンジャロ」という商品名で発売され、糖尿病治療に使えるようになりました。
そしてこの薬、単なる「新しいGLP-1」ではありません。
チルゼパチドは“ダブルアゴニスト”という新領域の薬
チルゼパチドのいちばんの特徴は、GLP-1に加えてもう一つ、**GIP(胃抑制ポリペプチド)**というホルモンの受容体にも働きかけること。
つまり、**2つのホルモンを同時に刺激する“デュアルアゴニスト”**なのです。
GLP-1は、インスリン分泌促進・胃排出遅延・食欲抑制など、よく知られた作用を持っています。
一方のGIPは、かつて「インスリン分泌は促すけど、肥満者には効きにくい」なんて扱われてきた存在。
けれど、GLP-1と一緒に作用すると、脂肪代謝や体重減少にプラスに働くことがわかってきました。
この“意外と良いコンビ”を見抜いたのが、チルゼパチドの面白いところです。
実際どれくらい効くの? ― SURPASS試験の衝撃
「GLP-1の進化形」と言うだけあって、臨床試験の結果もなかなかインパクトがあります。
代表的な試験「SURPASS-2」では、チルゼパチド群とセマグルチド群(GLP-1単独)を比較。
その結果、HbA1cの低下幅も、体重の減少幅も、いずれもチルゼパチドの方が上回るという結果になりました。
特に体重減少については、一部の高用量群で−10kg以上というケースも。
この数字は、もはや糖尿病薬というより“肥満治療薬”としての一面を強く印象づけるものでした。
アメリカでは「マンジャロ」=肥満治療薬としても承認済み
日本ではまだ糖尿病治療薬としてのみ使われていますが、アメリカでは2024年、高用量製剤が肥満症治療薬としても正式に承認されました。
つまり、同じチルゼパチドでも、
-
血糖管理を目的とするなら糖尿病薬(2.5〜15mg)
-
体重減少を目的とするなら肥満薬(10〜15mg)
というように、「適応」によって使い方が変わるようになってきているのです。
GLP-1作動薬も、リベルサス(経口セマグルチド)やウィーゴビー(高用量セマグルチド)などの派生が出てきましたが、
チルゼパチドも同じく、“糖尿病と肥満の架け橋”のようなポジションを築きつつあります。
そもそも、なぜここまで“体重”が注目されるのか?
これまで糖尿病治療といえば、「血糖を下げる」ことが中心でした。
でも実は近年、「体重を落とすこと自体が予後改善につながる」というエビデンスが増えています。
特にBMIが30以上の肥満症例では、体重を5〜10%落とすことで、
-
インスリン抵抗性の改善
-
血圧・脂質の改善
-
脂肪肝の改善
など、多方面にいい影響があるとされています。
そのうえで血糖もコントロールできるとなれば、一石二鳥どころか“一石三鳥”の薬。
だからこそ、チルゼパチドは「ただの新薬」ではなく、「治療戦略そのものを変えるかもしれない薬」として注目されているのです。
薬剤師として何を意識すればいい?
現場でこの薬に出会ったとき、
「血糖値だけを見ていたらもったいないな」と感じてほしいです。
・この患者さん、体重のコントロールにも悩んでない?
・生活習慣、変えたいと思ってない?
・食事や運動に疲れちゃってない?
そんな背景をくみ取りながら、
薬の説明だけじゃなく、生活の支援にまで目を向けられる薬剤師でありたい。
チルゼパチドは、そんな“きっかけ”をくれる薬かもしれません。
まとめ
チルゼパチドは、「GLP-1とGIPのダブルアゴニスト」という、これまでにない仕組みを持った薬です。
糖尿病治療薬として登場し、やがて肥満治療薬としても地位を築きはじめました。
「血糖だけを下げる」時代から、
「生活そのものを変える」治療へ。
そんな大きな流れの中で、今後ますます存在感を増していくはずです。
名前を知ってるだけじゃもったいない。
薬剤師として、ちょっとだけ先を読む目線を育てていきましょう。
コメント