うつ病と双極性障害:分類の歴史と現代の診断基準

薬剤師が語る-薬の歴史と-治療戦略の変遷 うつ
薬剤師が語る-薬の歴史と-治療戦略の変遷

うつ病(単極性うつ病)と双極性障害(かつて躁うつ病と呼ばれました)の分類は、精神医学の歴史の中で大きく変遷してきました。19世紀末には両者は同一視されていましたが、20世紀後半にそれぞれ別の疾患として認識されるようになり、現在ではDSMやICDといった国際的診断基準でも明確に区別されています 。本記事では、その歴史的経緯から現代の診断基準のポイントまでを解説します。また、薬剤師向けに臨床現場での“あるある”や薬歴記載のヒントも交え、正しい鑑別の重要性と治療選択への影響について考えてみましょう。

クレペリンが提唱した「躁うつ病」概念(19世紀末)

エミール・クレペリン(Emil Kraepelin)は19世紀末のドイツの精神科医で、精神疾患の分類に大きな功績を残しました。彼はそれまで別々の疾患と考えられていた躁(そう)とうつを統合し、**「躁鬱狂気(manic-depressive insanity)」**という一つの疾患概念にまとめたのです 。クレペリンは先人の研究(例えば1851年にファルレが提唱した躁とうつが交互に現れる「循環精神病」概念 )に着想を得て、この統合的な分類体系を築きました。

※**豆知識:**日本への紹介…クレペリンの教科書『精神病学』(1899年)は世界的に評価され、日本にも1906年に紹介されました。当時の日本では「躁鬱病」という訳語が用いられ、以後長らくこの病名が使われています 。

クレペリンの**「躁うつ病」概念は非常に広い範囲を含むものでした。躁病エピソードのみを繰り返すケースや、うつ病エピソードのみを繰り返すケース(後に単極性と呼ばれる)も、躁とうつの両方を経験するケース(後に双極性と呼ばれる)も、すべてまとめて「躁うつ病」とされたのです 。現在の言葉で言えば「気分障害」全般**に相当し、病前性格が循環気質の軽症例(いわゆる気分循環症)まで吸収されていたため、「あまりに概念が広すぎる」と当時から批判も受けていました 。

このようなクレペリンの**一元論(躁うつ病一元論)**は、その後しばらく精神医学に大きな影響を与えました。しかし、20世紀に入ると、この広範な概念を再検討しようという動きが出てきます。

単極性うつ病と双極性障害の分離(20世紀中盤)

クレペリンの「躁うつ病」概念に対し、「広すぎるのでは?」という指摘は根強く、徐々に単極性(うつ病のみ)と双極性(躁とうつの両方)の違いに着目する研究が現れてきました。特に1960年代になると、気分障害の経過(エピソードの繰り返し方)、発症率の性差(男女比)、家族歴(遺伝要因)、病前性格などを詳細に検討する研究が進みます 。その結果、**「躁うつ病(=気分障害)を2つに分けるべきだ」**という意見が有力となりました 。すなわち、

  • 双極性障害(躁病エピソードも抑うつエピソードも呈するタイプ)
  • 単極性うつ病(うつ病エピソードのみ繰り返すタイプ)

の二元論が提唱されたのです 。この動きには欧州の研究者ら(例:スイスのユールス・アングストやスウェーデンのペリスら)の報告が影響しており、単極性 vs 双極性という概念が精神医学に定着し始めました。単極性うつ病の患者では家族にうつ病者が多いのに対し、双極性では家族に躁うつ病(現在でいう双極性障害)の人が多い、などの遺伝学的な相違も指摘されました。また疫学的にも、うつ病のみの群は女性が多く発症するのに対し、躁とうつの両方を持つ群は男女差が小さいといった違いも報告されています。このような知見が蓄積するにつれ、**「同じ躁うつ病の中でも2種類あるのではないか?」**との考えが広く支持されるようになりました 。

こうして20世紀後半には、単極性うつ病(unipolar depression)と双極性障害(bipolar disorder)を別個の疾患カテゴリーとして扱う流れができあがったのです 。日本でも「躁鬱病」という従来の呼称から、「双極性障害(そうきょくせいしょうがい)」という新たな名称を使い分ける動きが専門家の間で始まりました。

臨床のあるある①: 双極性障害の患者さんでも、初発がうつ病エピソードの場合、最初は単なる「うつ病」と診断されてしまうケースが少なくありません。ある調査では、双極性障害患者の実に約77%が「初めて受診した医療機関では別の病名(多くはうつ病)と言われた」と回答しています  。つまり5人中4人近くは最初双極性と見抜かれていないのです。このように当初は単極性のうつ病と誤診され、後になって双極性障害と診断が訂正されることは、臨床現場で「あるある」です。

DSMとICDにおける定義の変遷(1980年代~)

**DSM(米国精神医学会の診断基準)およびICD(国際疾病分類, WHO)**においても、1980年代以降は単極性うつ病と双極性障害が明確に区別されるようになりました。

  • DSM-IIまで(~1970年代): クレペリン以来の伝統的分類を踏襲し、**「躁うつ病 (manic-depressive illness)」**という診断名が使われていました 。躁病型、抑うつ型などエピソードの型で分類はしていたものの、単極性 vs 双極性の明確な区別はありませんでした。
  • DSM-III(1980年): 精神医学に革命をもたらしたDSM-IIIでは、大幅な分類見直しが行われ、「双極性障害 (Bipolar Disorder)」という名称が初登場しました 。ここで「気分障害 (Mood Disorders)」というカテゴリーの中に、「双極性障害」と「大うつ病性障害(Major Depressive Disorder)」が並立する形となり、双極性=躁状態を含む群、うつ病=躁を含まない群という区分が公式に確立しました  。このDSM-III以降、米国を中心に“Bipolar”という概念が急速に浸透していきます。
  • DSM-IV(1994年): 双極性障害の中でさらに細分類が進みました。特にDSM-IVでは**「双極性II型障害 (Bipolar II Disorder)」が正式に独立疾患として認められた点が画期的です 。それまで双極性障害の中の亜型扱いだった「軽躁状態+抑うつ状態」のタイプが、明確に双極I型(躁病経験あり)とは異なる双極II型(軽躁どまり)**として位置づけられました。この変更により、「軽躁状態しかないが繰り返しうつ病になる患者」も正式に双極性障害としてカウントされるようになり、臨床の現場でもBipolar IとIIを区別する考えが広まりました 。
  • DSM-5(2013年): 最新のDSM-5では「双極性および関連障害」と「抑うつ障害」が別の章に分割され、両者の違いがより強調されました。また、混合症状 (mixed features) の仕様が導入され、うつ病エピソード中の軽躁症状や躁病エピソード中の抑うつ症状を注記できるようになりました 。これは後述するスペクトラム概念を部分的に反映した変更と言えるでしょう。さらにDSM-5では双極I型障害の診断に**「抑うつエピソードの有無」は問わない**(躁病エピソードさえあればよい)ことが明文化されるなど細かな変更もありました 。
  • ICD-10(1992年): WHOの国際疾病分類でも、1990年代に**「双極性障害」**が公式用語として採用されました 。ICD-10ではF30(躁病エピソード)、F31(双極性障害)、F32/33(うつ病エピソード/反復性うつ病)と分類され、**双極性障害(躁とうつの両方起こりうるもの)と、うつ病(躁を伴わないもの)**が明確に区別されています。日本でもICD-10は1995年に採用され、保険診療上の診断名も「双極性障害」が使われるようになりました。
  • ICD-11(2019年): 最新のICD-11では、「双極性障害および関連症群」として双極I型・II型の区別が診断基準上も示されています 。例えばICD-11の双極II型障害の定義では、「1回以上の軽躁エピソードと1回以上の大うつエピソードを経験し、過去に1度も躁病エピソードがない」ことが挙げられており 、DSM-5とほぼ同様の内容です。ICD-10までは双極I型とII型を厳密に分けず「双極性感情障害」と一括りにしていましたが、ICD-11でよりDSMに近い形にアップデートされたと言えます。

日本では長く「躁うつ病」という名称が使われてきましたが、近年は学術的にも「双極性障害」という呼称が主流です。特に1990年代後半からは、米国で気分安定薬のバルプロ酸(デパケン®)が双極性障害治療薬として承認された影響もあり、学会発表や論文でも「躁うつ病」より「双極性障害」という言葉が好まれるようになりました 。実際、1995年に米国でバルプロ酸が双極性障害に適応取得した直後から、「双極性障害」をタイトルに含む論文数が急増したというデータもあります 。薬剤選択と疾患概念が結びつき、名称の置き換えが進んだ興味深い例と言えるでしょう。

双極性障害I型とII型の違い、そしてスペクトラム概念

上述の通り、双極性障害にはI型とII型があります。それぞれの診断基準上の違いと、近年注目されるスペクトラム(連続体)概念について整理します。

  • 双極I型障害(BP-I): 一生のうちに少なくとも1回の躁病エピソードがあれば診断されます 。躁病エピソードとは、異常に気分が高揚または易怒的になり、活動やエネルギーが高まった状態が1週間以上続くものです。典型的には社会生活に著しい支障をきたすほど症状が重く、しばしば入院治療や幻覚・妄想を伴うこともあります 。双極I型では抑うつエピソードを経験する人が多いですが、厳密にはうつ病エピソードが無くても躁病が1回あればBP-Iと診断可能です 。要するに「**大きな躁」を経験したことがあるか」がI型の決め手です。
  • 双極II型障害(BP-II): 躁病エピソードを一度も経験していないことが前提で、代わりに少なくとも1回の軽躁(hypomanic)エピソードと1回以上の抑うつエピソードの両方を持つ場合に診断されます 。軽躁状態とは躁病ほど極端ではないものの、通常より気分が高揚し活動的になる状態で、4日間以上持続します。ただし社会的機能を著しく損なうほどではなく、入院を必要とするケースもまれです 。本人や周囲が「ちょっと元気すぎるかな?」程度に思うレベルのため、見過ごされやすいのが特徴です。双極II型では大うつ病エピソードが必須であり(うつ状態の経験がないと診断できません)、その点が「躁のみでもよい」I型との違いです 。

以上をまとめると、「躁の有無と程度」がI型とII型を分けるポイントになります 。なお、II型の抑うつ期の症状の重さや辛さはI型のうつ病相と少しも変わりません 。II型だからうつ状態が軽いということはなく、むしろ長期に渡る抑うつで苦しむケースも多いため、「II型=軽症」という誤解は禁物です。

臨床のあるある②: 双極II型障害は見逃されやすい…双極I型では激しい躁状態があるため比較的区別がつけやすいですが 、II型は前述のように軽躁状態が「元気がいい期間」にしか見えず本人も病的と自覚しないことがあります 。その結果、初めは「うつ病」と診断されてしまうケースが少なくありません 。実際、うつ病と診断された人の1~2割程度は後に診断が双極性障害に変更されるとも言われています 。患者さんが「調子が良いだけ」と思って医師に軽躁期間のことを話さないこともあるため 、我々医療者側が慎重に聞き取る姿勢が大切です。

双極スペクトラムの考え方

双極I型とII型に分類できるとはいえ、気分障害は連続体上に存在するという見方も重要です。米国の精神科医**アキスカル(Hagop Akiskal)は、双極性障害と単極性うつ病の間に連続性があると考え、「双極スペクトラム」**という概念を提唱しました 。これは、双極性障害のグレーゾーンとも言うべき領域で、以下のようなケースを含みます 。

  • 抗うつ薬投与中に躁転したうつ病患者 – 普段はうつ病エピソードしかないが、抗うつ薬治療で軽躁・躁状態が誘発されたケース(※俗に「双極III型」と呼ばれることもあります)。
  • 循環気質の患者がうつ病エピソードに陥った場合 – 生来、気分の変動が大きい(循環気質)人が初めて大きなうつ病に至ったケース。
  • 発揚気質(陽気で活動的な性格)の患者がうつ病になった場合 – 普段から活動的で楽観的な人(いわゆるハイパーソーマル気質)が、ストレスなどでうつ状態に落ち込んだケース。

アキスカルはこのような**「うつ病だけれど躁的な因子を持つ」症例を広く双極性の連続体に含めて考え、双極スペクトラム障害と位置づけました 。この考え方の意義は、単極性うつ病とされていた患者でも躁的要素が認められれば、抗うつ薬だけにこだわらず気分安定薬の使用を検討すべきという点です 。実際、そのような患者ではリチウムや抗てんかん薬など気分安定薬が奏効する場合も少なくないことが報告されています 。つまり治療戦略の幅を広げる概念**として、スペクトラムの視点は薬物療法にも影響を与えているのです。

補足: 双極スペクトラムは正式な診断カテゴリーではありません。DSMやICD上はあくまで双極I型・II型・気分循環性障害などに分類されます。しかし臨床的には「グレーゾーン」の存在を意識することが重要で、患者それぞれの気質やエピソードの特徴を踏まえて柔軟に対応することが求められます 。

現在の日本の診断指針とガイドライン

日本における診断基準も、基本的にはDSM-5やICD-10/11に準拠しています。厚生労働省は診療情報管理上ICDを採用していますし、精神科臨床ではDSM-5の日本語版(医学書院刊の翻訳)が事実上のスタンダードになっています 。したがって、双極性障害の定義も前述したDSM/ICDの内容と一致しています。

近年、日本でも双極性障害に関する診療ガイドラインが整備されてきました。日本うつ病学会は2012年に初めて**「双極性障害の治療ガイドライン」を公開し、その後2020年に改訂、第3版として2023年に「双極症診療ガイドライン2023」**を発行しています 。最新のガイドラインでは、診断・治療に関する最新エビデンスのほか、患者支援や周産期対応なども含め幅広い情報が提供されています 。薬剤師として特に押さえておきたいポイントを、いくつか抜粋します。

  • 鑑別診断の重要性: ガイドライン序章でも強調されていますが、うつ病と双極性障害の鑑別は極めて重要です 。双極性障害は、(1)急激に重症化しうる、(2)うつ病エピソードが抗うつ薬に反応しにくい、(3)自殺のリスクが高い、(4)社会的機能障害が大きい、といった特徴があり 、治療方針を誤ると深刻な転帰を招きかねません。そのため「大うつ病」と診断された患者であっても、過去に軽躁・躁エピソードがなかったか丁寧に問診するよう推奨されています。特に初診時には、本人だけでなく家族にも**「昔、寝なくても平気で活動的になりすぎたことがありませんでしたか?」**といった聞き取りを行うことが望ましいでしょう。
  • 抗うつ薬の取り扱い: ガイドラインでは双極性障害のうつ状態に対する抗うつ薬単独療法は基本的に推奨されないと明記されています  。抗うつ薬で一時的に気分が持ち上がっても、その反動で躁転したり、エピソードの頻度が増す(ラピッドサイクル化する)リスクがあるためです 。したがって現在の標準治療では、双極性の抑うつには気分安定薬(リチウム、バルプロ酸、ラモトリギン等)や非定型抗精神病薬(クエチアピンやオランザピンなど)を用いることが推奨されています 。薬剤師も処方監査時に、うつ病と診断された患者に抗うつ薬が漫然と処方され続けていたり、新たに抗うつ薬が追加された場合には、「この患者さんは双極性の可能性はないだろうか?」と注意を払う必要があります。特に過去に抗うつ薬で気分がハイになりすぎた経験がある患者では要警戒です。
  • 双極性障害の治療薬選択: 双極性障害では気分安定薬が治療の柱となります。リチウムは再発予防効果と自殺予防効果が高く 、第一選択とされます。また、躁状態急性期には気分安定薬に加えて非定型抗精神病薬(クエチアピン、オランザピン、アリピプラゾール等)の併用で早期鎮静を図ることも一般的です 。抑うつ相にはリチウムやラモトリギン、クエチアピンなどが推奨され、重症例では電気けいれん療法(ECT)の適応も検討されます 。こうした治療戦略は日本うつ病学会治療ガイドライン2012/2020や、各国のガイドライン(米国APAやカナダCANMATなど)でもおおむね共通しています 。薬剤師は処方内容から患者の病相を推測し、適切な投薬かチェックするとともに、副作用や服薬アドヒアランスの面でサポートする役割が求められます。
  • 関連情報の収集: ガイドラインでは診断・治療以外にも、心理社会的支援や患者教育の重要性が述べられています 。例えば生活リズムの安定やストレス対処法、家族への教育などです。薬局でも睡眠状況や日内変動について患者に尋ねたり、簡単な心理教育(「夜更かしは気分不安定の元になりますよ」など)を行うことで、患者さんの再発予防に寄与できるでしょう。

薬剤師が知っておくべき鑑別ポイントと薬歴のヒント

上述の内容を踏まえ、実際に調剤や服薬指導の場で薬剤師が注意すべきポイントを整理します。

●鑑別のサイン: 患者が本当に単極性のうつ病なのか、それとも双極性要素を秘めているのかを見極めるヒントとして、いくつかのサインが知られています。例えば、非定型的な抑うつ症状(過眠傾向・過食傾向がある)、初発年齢が若い(思春期~20代で発症)、産後うつの既往、家族に双極性障害の人がいる、これまでの抗うつ薬治療がことごとく無効だった、あるいは抗うつ薬で一時的によくなった後に気分が乱高下した経験がある——このような場合、実は双極性障害が隠れている可能性があります 。薬剤師も問診やお薬手帳の履歴を確認する中で、「この方、典型的なうつ病と少し様子が違うかも?」と感じたら、ぜひ処方医にその旨をフィードバックしたり、患者さん本人に主治医への相談を促すことが大切です。

●処方内容から読み取る: 調剤時には処方薬の組み合わせから鑑別のヒントを得られることもあります。抗うつ薬単独で長期処方されているうつ病患者さんがいれば、その方は少なくとも現在は単極性うつ病と判断されていると考えられます。一方、処方に炭酸リチウムやバルプロ酸、ラモトリギンなどが含まれていれば、それは気分安定薬であり、患者さんが双極性障害と診断されている可能性が高いでしょう。また非定型抗精神病薬(例えばクエチアピンやオランザピンなど)が抗うつ目的で処方されるケースも、双極性の抑うつ相対策である場合が多いです(※近年クエチアピンは双極性うつ病への保険適応も取得)。こうした処方の意図を汲み取り、患者さんに「気分の波は安定していますか?」と声をかけたり、副作用のモニタリングを行うのも薬剤師の役割です。

●躁転の兆候に注意: 抗うつ薬治療中の患者で、急に元気になり過ぎたり、寝なくても平気になったといった言動が見られたら要注意です。それは回復を通り越して軽躁あるいは躁状態に入ってしまった兆候かもしれません。患者さん自身は「調子が良くなった!」と喜んでいても 、周囲から見ると明らかにハイになりすぎている場合があります。薬局で「最近すごく色々アイデアが浮かんで寝る間も惜しんで活動してます!」などと患者さんが話したら、躁転の可能性を念頭に置きましょう。その際は服薬状況や生活リズムを詳しく尋ね、必要に応じて主治医に情報提供することも検討します。

●薬歴への記載: 気分障害の患者さんを担当する際、薬歴には気分の変動や睡眠状況、副作用などをできるだけ詳しく記載しましょう。「〇月頃に○○薬開始後、以前より口数増加。不眠傾向」のように書いておけば、後から見返した医療者が「もしかしてこの時期に軽躁転していたのかも?」と推測できます。特に双極性障害では経過を縦断的に把握することが大事なので 、薬局としても情報の蓄積に貢献できると理想的です。また、双極性障害患者さんの場合、長期の維持療法が必要になります 。薬歴にリチウムの血中濃度モニタリング状況や、定期受診の間隔などを書き添えておくと、服薬指導の際に「長く飲み続ける意義」を患者さんに説明しやすくなるでしょう。

おわりに

うつ病と双極性障害の分類の歴史を振り返ると、かつて一括りだった疾患が細分化されてきた経緯が見えてきます。背景には、研究の進展による疾患理解の深化と、治療薬の発展があります。現代では、この2つを混同すると治療戦略が大きく異なり、患者さんの予後に直結します。薬剤師も「ただ処方箋通りに薬を渡す」のではなく、疾患の本質を理解した上で薬物療法の適正化に寄与することが期待されています。

幸い、近年はガイドラインや研修会を通じて最新知見を学ぶ機会も増えています。本記事で述べたポイント(歴史的経緯、診断基準、治療方針の違い、鑑別のポイントなど)を踏まえ、ぜひ日々の業務に活かしてみてください。**「もしかしてこの患者さん、双極性かも?」**と気づける薬剤師の視点が、患者さんの人生を救うこともあるのです。

|最後に|

この記事が「役に立った」「面白かった」と感じたら、 ぜひ『いいね👍』で応援いただけると励みになります。
ヤクマニドットコムでは、薬の歴史・開発背景・治療戦略の変遷を通じて 薬剤師・薬学生のみなさんの「深い理解」をサポートしています。
今後も「薬の物語」を一緒にたどっていきましょう。

編集者のXをフォローして、新着記事情報ををチェック✔
|最後に|
この記事が「役に立った」「面白かった」と感じたら、『いいね👍』してね!
編集者のXをフォローして、新着記事情報ををチェック✔
|編集者|
ヤクマニ01

薬剤師。ヤクマニドットコム編集長。
横一列でしか語られない薬の一覧に、それぞれのストーリーを見つけ出します。
Xで新着記事情報ポストするので、フォローよろしくお願いします✅️
noteで編集後記も書いてるよ。

ヤクマニ01をフォローする
うつ
※本記事は薬学生および薬剤師など、医療関係者を対象とした教育・学術目的の情報提供です。医薬品の販売促進を目的としたものではありません。
※本記事は薬学生および薬剤師など、医療関係者を対象とした教育・学術目的の情報提供です。医薬品の販売促進を目的としたものではありません。
シェアする

コメント