帯状疱疹治療薬の歴史と主要薬剤

薬剤師が語る-薬の歴史と-治療戦略の変遷 感染症
薬剤師が語る-薬の歴史と-治療戦略の変遷

帯状疱疹(ヘルペス・ゾスター)は水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)の再活性化による疾患であり、治療には主に抗ヘルペスウイルス薬が用いられてきた。最初の抗ヘルペス薬は1950年代末に開発された核酸アナログであるイトウラシル(idoxuridine)である。イトウラシルはヘルペスウイルスのDNA複製に取り込まれてチミジンに代わることでウイルス増殖を阻害したが、全身投与では強い毒性を示したため局所(点眼)療法に限られた 。その後、1960~70年代にかけてビダラビン(アラビノフラノシド)などのアデノシン核酸アナログも開発されたが、いずれも全身投与では副作用が強く、主に角膜炎などの眼科領域で局所用に用いられた。

アシクロビル(Aciclovir)の登場

本格的な帯状疱疹治療薬の黎明期は、1974年にSchafferら(米グラクソ社)がアシクロビル(Zovirax)を合成したことに始まる 。アシクロビルはプリン骨格の核酸アナログで側鎖に非環状構造を持ち、1977年にヘルペスウイルスに高い特異活性と低細胞毒性を示すことが明らかとなった 。作用機序は、ウイルス感染細胞内でウイルス由来のチミジンキナーゼ(TK)により一リン酸化され、さらに細胞内酵素で三リン酸化体(アシクロビル三リン酸)となってウイルスDNAポリメラーゼを競合阻害しDNA鎖伸長を阻止するものである。日本では1981年から臨床開発が開始され、免疫抑制患者に発症したHSV感染(単純疱疹、水痘、帯状疱疹)やVZV性脳炎・髄膜炎で有効性・安全性が確認された結果、1985年4月16日に点滴静注剤(250mg/バイアル)が承認された 。同年8月には日本で最初の抗ヘルペス剤として上市された 。以後、逐次製剤化や適応追加が行われており、2010年には新生児ヘルペスに対する効能が付与されている 。

アシクロビルの投与方法は点滴静注が主体で、重症例や免疫抑制例で用いられる。経口剤(錠剤、顆粒)も開発されており、経口吸収性は低いが軽症例に対し使用される。帯状疱疹では従来1日5回投与(1回800mg×5回など)×7日間が目安であったが、高い頻度投与が必要で服薬コンプライアンスが課題であった。臨床効果として、発疹の硬結化促進や疼痛緩和が認められ、帯状疱疹後神経痛(PHN)の発症抑制にも効果が示された。承認前後の使用成績調査では、帯状疱疹の改善率は約90%超、脳炎・髄膜炎でも約80~90%の改善率を示した 。

副作用としては、点滴投与に際して腎臓障害や神経毒性が知られる。特に高用量・脱水下では尿路に結晶が析出し急性腎障害を起こすことがあり、十分な水分補給が推奨される。臨床調査ではALT/AST上昇(約1%)や消化器症状(嘔気・嘔吐数%)が報告されている 。重篤例ではアナフィラキシー、汎血球減少、播種性血管内凝固(DIC)や劇症肝炎、中枢神経障害(錯乱、痙攣)などが報告されている 。腎機能低下例では中枢神経系副作用(せん妄、振戦など)の発現リスクが高まるため、クレアチニンクリアランスに応じて用量・投与間隔を調整する必要がある 。

ソリブジン事件(ソリブジン薬害)

アシクロビル登場後の1993年、ヤマサ醤油(現マルホ)開発のソリブジン(商品名ユースビル)が帯状疱疹治療薬として上市された 。ソリブジンはHSV/VZVに強い活性を示すブロモ化ウラシル誘導体であった。しかし発売から約1か月で、フルオロウラシル系抗癌剤との併用により重篤な血液障害(重度の骨髄抑制)が相次ぎ、多数の死亡例(23例中15例死亡)が報告された 。これはソリブジン代謝産物が5-FUの分解を阻害し薬物動態的相互作用を生じたためである。メーカーは緊急回収・回収後は承認撤回となり、以降1996年に薬事法改正・医療薬学教育改革が進められる契機となった 。この事件以降、1996年~2008年まで日本ではソリブジンの代替となる新規帯状疱疹薬は登場せず、アシクロビル系のみが使われる時代が続いた 。

バラシクロビル(Valaciclovir)の登場

アシクロビルの服薬回数や吸収率を改善するプロドラッグとして、バラシクロビル塩酸塩(Valaciclovir、商品名バルトレックス)が開発された。バラシクロビルは1987年に英国バローズ・ウェルカム社(現GSK)で合成され、アシクロビルのL-バリルエステル化により経口吸収性を大幅に向上させたものである 。体内で速やかに加水分解され活性体のアシクロビルに変換され、HSV/VZVに対して強い抗ウイルス効果を示す 。世界100か国以上で単純疱疹・帯状疱疹治療に使用されている。

日本では帯状疱疹に対する臨床試験で有効性・安全性が確認され、2000年7月に錠剤(500mg)が承認上市された 。さらに高齢者向けの顆粒剤(50%)も2001年7月に承認された 。帯状疱疹治療では標準的に「成人:1回500mgを1日3回×7日間」が用いられる 。単純疱疹治療としては口唇ヘルペス等に500mg 2回/日(再発抑制では250mg 2回/日)などの投与法が設定されている。

バラシクロビルの臨床効果はアシクロビルと同等で、皮疹の治癒促進や痛みの改善が認められる。承認時の使用成績調査では、帯状疱疹患者で98%以上に皮疹改善が見られ、頭痛・吐き気・嘔吐等の症状も有意に軽減したと報告されている。小児水痘に対する適応や、単純疱疹・性器ヘルペスの再発抑制適応も順次追加され、2014年には骨髄移植時のHSV感染抑制適応が付与された 。

副作用は比較的軽度で、承認時までの臨床試験では主に「頭痛」2~9%、「傾眠・意識低下」約2~3%、「消化器症状(悪心・下痢等)」数%程度が報告されている 。肝機能検査値上昇も1~2%程度認められた 。重大なものとしてはアナフィラキシーや幻覚、骨髄抑制などの報告もあるが頻度は低い。腎機能障害患者ではアシクロビル同様に代謝物の排泄が遅延し神経系副作用が増大するため、腎機能に応じた減量が必要である 。

ファムシクロビル(Famciclovir)の導入

ファムシクロビルはノバルティス社が開発したプリン核酸系抗ウイルス薬で、ペンシクロビルを経口吸収性良好なプロドラッグ化(3枚のアセチル化)したものである。経口投与後速やかにペンシクロビルとなり、HSV/VZV感染細胞内でウイルスTKにより三リン酸化され、DNAポリメラーゼを阻害してウイルス増殖を抑制する 。帯状疱疹に対しては成人で「1回500mgを1日3回×7日間」の投与で急性期の皮疹や疼痛を改善することが示されている 。

日本では2008年4月16日付で旭化成ファーマが製造販売承認を取得し、マルホが販売を行った 。これにより、2000年代後半までアシクロビル系のみだった帯状疱疹治療に新たな選択肢が加わった。投与量は上記の通りで、米国等の用法と同様である 。

臨床効果はアシクロビル・バラシクロビルと同等レベルで、皮疹の治癒促進と痛み軽減が認められている。国内第III相試験でのデータをまとめた結果、帯状疱疹患者の皮疹改善率は98%以上、疼痛改善も優れた結果が得られた。主な副作用は内用量分布調査で「傾眠(眠気)」2.1%、「口渇」1.1%などで報告された 。その他、ALT上昇や頭痛、AST上昇などの検査値異常も数%発現しており 、安全性はバラシクロビル同様に概ね良好であった。腎排泄性が高いため、クレアチニンクリアランスに応じた減量・投与間隔延長が注意点となる 。

アメナメビル(Amenamevir)の登場

近年では、核酸類似体とは異なる作用機序を持つ抗ヘルペス薬アメナメビル(Amenamevir、商品名アメナリーフ)が登場した。本剤はアステラス製薬が創製しマルホが開発した新規経口薬で、これまでの抗ヘルペス薬とは異なり「ウイルスヘリカーゼ・プライマーゼ複合体」の酵素活性を阻害する非核酸系の化合物である 。これによりウイルスDNA複製に必須なATPase活性、ヘリカーゼ活性、プライマーゼ活性を阻害してHSV/VZVの増殖を抑える 。核酸類似体薬剤と異なりアシクロビル耐性ウイルスにも交差耐性を示しにくく、新しいメカニズムとして期待されている。

2017年7月3日に帯状疱疹治療薬として承認・上市され、当初は「アメナメビル錠200mg(アメナリーフ®)」として発売された 。用法用量は「1日1回400mg(200mg錠×2錠)を食後に投与」であり、投与回数が他剤より少ないのが特徴である 。国内臨床試験では、皮疹硬結化までの日数中央値が35日、PHNへの移行率24.7%であったと報告されている。新規薬剤として承認申請時に安全性も審査され、用益比から安全性は許容可能と判断された 。

副作用は主に検査値異常として報告されており、承認時までの試験例(帯状疱疹患者317例)で副作用発現率14.5%のうち、β-N-アセチルグルコサミニダーゼ増加2.8%、α1-ミクログロブリン増加1.9%、フィブリン分解産物(FDP)増加1.6%、QT延長1.3%などが散見された 。重大な副作用としては多形紅斑(Stevens-Johnson症候群)などが挙げられている 。また市販後集積データでは低Na血症、血小板減少、発疹、横紋筋融解症などが散発的に報告されている 。本剤は主に肝代謝型で腎排泄が少ないため、腎機能に応じた用量調整は不要とされる 。一方、QT延長の可能性があるため心電図検査の実施、他薬剤との相互作用(抗不整脈薬や抗菌薬)への注意が製剤上の指針となっている。

まとめ

日本における帯状疱疹治療薬の発展は、1950~60年代の核酸アナログから始まり、1980年代のアシクロビル登場を契機に飛躍的に進展した。以降は経口プロドラッグのバラシクロビル(2000年承認)とファムシクロビル(2008年承認)により服用利便性が向上し、2017年には核酸類似体と異なる作用機序のアメナメビルが加わった。これら抗ウイルス薬のいずれもVZVのDNA複製阻害を主機序とする点で一致し、臨床的には皮疹の上皮化促進と疼痛緩和に有効である。副作用は各薬剤で特徴的なもの(アシクロビル系では腎障害・神経障害、ファムシクロビルでは眠気、アメナメビルではQT延長など)が認められるため、投与前のリスク評価や投与中のモニタリング、腎機能や薬剤相互作用に配慮した投与計画が重要である。

これらの抗ウイルス薬と併せて、帯状疱疹予防用ワクチンの導入も進んでおり、今後は予防・治療双方の進展が期待される。しかし薬剤師としては、各薬の作用機序や投与法、副作用・禁忌などを正確に理解し、患者の症状・背景に応じた適切な選択と指導を行うことが求められている 。

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※本記事は薬学生および薬剤師など、医療関係者を対象とした教育・学術目的の情報提供です。医薬品の販売促進を目的としたものではありません。
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