潰瘍性大腸炎を学ぶ薬剤師が最初に見る記事

潰瘍性大腸炎を学ぶ薬剤師が最初に見る記事 潰瘍性大腸炎
潰瘍性大腸炎を学ぶ薬剤師が最初に見る記事

その薬、なぜ使われるのか。治療戦略の概要を知っておこう。

はじめに ― 治療の“選ばれ方”を語れる薬剤師へ

潰瘍性大腸炎(UC)は、大腸に慢性の炎症を起こす原因不明の疾患です。日常を突然奪い、再燃と寛解を繰り返す難病――それがこの病気の正体です。

一見すると学びにくそうな疾患ですが、じつは「治療薬の選ばれ方」にとても明確なロジックがあり、薬剤師にとって“治療戦略を読む力”を養う格好の題材でもあります。

UC治療の基本的な流れは、まず炎症を抑える「寛解導入」、その後の再燃を防ぐ「寛解維持」に分かれます。どの薬がどちらの段階で登場し、どのように使われるのか。その意味を理解しておくことで、薬剤師としての支援の幅も深さも変わってきます。

ここでは、UCの治療を「軽症→中等症→重症」へと進むステージ構造で捉え直し、それぞれのフェーズに登場する薬たちの意味と背景を物語として描いていきます。

これは腸の病気じゃない――“日常”を飲み込む病

潰瘍性大腸炎は、大腸の粘膜に炎症を引き起こす疾患ですが、実際に影響を受けるのは腸だけではありません。症状の再燃と寛解を繰り返すなかで、患者の生活全体がその波に飲み込まれていきます。

血便や腹痛、頻回の下痢。夜間のトイレ通いで眠れず、外出先でもトイレの場所を常に気にする。職場や学校では症状を隠すことに神経をすり減らし、誰にも言えない孤独感と、「このまま治らないかもしれない」という不安を抱えて生きる日常があります。

潰瘍性大腸炎は、厚労省の定める指定難病でもあり、医療費の助成制度なども整備されていますが、その苦しさを完全に取り除くものではありません。

薬剤師にできるのは、この病気が単なる“腸の病気”ではなく、“生活そのものを侵食する病”であることを理解し、その文脈のなかで薬と向き合うことです。

軽症〜中等症 ― “守る薬”5-ASAのはじまりと可能性

まず、潰瘍性大腸炎と診断された多くの患者が、最初に出会う薬。それが5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤です。大腸の炎症を抑えるこの薬は、軽症〜中等症の患者において初期治療の主役として位置づけられています。

メサラジンには放出部位の異なる製剤がいくつか存在し、直腸型や左側型、全大腸炎型といった病変の広がりに応じて使い分けられています。小腸から広く作用する製剤もあれば、主に結腸に集中する設計のものもある。薬の違いには、患者ごとの「どこが炎症を起こしているか」という臨床的な背景が色濃く反映されているのです。

薬剤師にとって重要なのは、この製剤の選択が単なる“処方医の好み”ではなく、「病変の場所」と「治療戦略」の反映であるという視点を持つこと。そしてもうひとつ、寛解後にも継続投与されることで再燃を防ぐという“守り”の意味合いも、患者に伝える役割があります。

症状がなくても薬を続ける理由が腑に落ちたとき、患者の服薬行動は「義務」から「選択」へと変わっていきます。

中等症〜寛解導入失敗時 ― ステロイドという“切り札”の功と罪

そして、5-ASAではコントロールが難しい症例、あるいは中等症以上の急性期においては、ステロイド(プレドニゾロンなど)が用いられます。いまでは“第二選択薬”としての位置づけですが、歴史的には潰瘍性大腸炎に最初に劇的効果をもたらした薬でした。

1950年代、コルチゾンがUCに使用されたことで、血便が止まり、歩けなかった患者が回復していくという“奇跡”が起こりました。その効果の大きさから、当時は「魔法の薬」とまで呼ばれました。

しかし、魔法には代償がありました。ムーンフェイスや骨粗鬆症、糖尿病、感染症といった副作用、そして最も厄介だったのが「ステロイド依存」です。減らすと再燃し、中止すれば悪化する。そんな患者に対して、医療者は常に緊張感を持って臨まなければなりませんでした。

現代では、ステロイドの使用は明確に戦略化されています。導入→減量→離脱という段階を設定し、できるだけ短期で切り上げる。その進行のどこに患者がいるのか、減量が順調にいっているか、あるいは再燃の兆しが見え始めていないか。薬剤師の眼差しが、そこに介在できるのです。

維持ができない ― 免疫調節薬という“再燃防止の守備固め”

5-ASA単独では寛解を維持できない。あるいは、ステロイド離脱後に再燃を繰り返す。そんなときに選ばれるのが、アザチオプリンや6-MPといった免疫調節薬です。

これらの薬は、急速な効果を期待する薬ではありません。炎症の火種をじわじわと消し、中長期的に再燃を防ぐ、いわば守備固めの薬です。

効果発現までには2〜3ヶ月かかることもあり、副作用にも注意が必要です。白血球減少や肝障害、膵炎、そして特に重要なのがTPMTやNUDT15といった代謝酵素遺伝子の活性です。これらの活性が低い患者に通常量を投与すると、重篤な副作用を引き起こす可能性があるため、薬剤師による事前確認とフォローは不可欠です。

免疫調節薬は“目立たない薬”かもしれません。ですが、その影で治療を支える視点と観察力は、薬剤師の専門性を最も発揮できる場所でもあるのです。

ただし、、、
「免疫調整薬」というカテゴリ自体も、いま静かに世代交代の渦中にあります。

最近では、こうした“免疫を調整する飲み薬”に、新しい仲間たちが台頭してきました。

たとえば、**JAK阻害薬(ウパダシチニブなど)やS1P受容体調節薬(エトラシモド、オザニモド)**は、バイオ製剤に匹敵する強さを持ちながら、内服で済むという手軽さが特徴。

「バイオは注射だから抵抗がある」「アザチオプリンは長期管理が大変」

…そんな現場の声に応えるかたちで、“強くて、使いやすい”飲み薬の選択肢が増えてきているのです。

重症・難治例 ― バイオ製剤と分子標的薬の衝撃

かつて、ステロイドが効かなければ外科手術という選択しかなかった重症患者たちに、薬による寛解という道を開いたのがバイオ製剤・分子標的薬でした。

抗TNF-α抗体(インフリキシマブ、アダリムマブ)、抗インテグリン抗体(ベドリズマブ)、抗IL-12/23抗体(ウステキヌマブ)、JAK阻害薬(トファシチニブ)、S1Pモジュレーター(オザニモド)など、それぞれ異なる経路を標的とした薬たちが登場し、治療戦略は飛躍的に多様化しました。

中でも、自己注射や経口投与が可能になったことで、治療は「入院して点滴を打つ時代」から「自宅で自己管理する時代」へと移り変わりました。

薬剤師の役割も同様に進化しています。単なる調剤にとどまらず、自己注射支援、感染症リスクへの説明、検査値のモニタリング、ワクチン接種歴の確認と、関われる領域が格段に増えているのです。

薬の“名前”ではなく、“意味”を届けよう

潰瘍性大腸炎の治療は、ただ新薬が増えたという話ではありません。「重症度」「治療フェーズ」「生活背景」に応じて、薬が“選ばれ続けている”という物語です。

患者は、「この薬って何?」ではなく、「この薬が、自分の未来とどうつながっているか」を知りたがっています。

その問いに、“正しい情報”だけでなく、“一緒に考える姿勢”で応えること。それこそが、これからの薬剤師の仕事です。

潰瘍性大腸炎は語り尽くせない疾患です。でも、だからこそ、語り続ける価値がある。薬の進化を言葉にして届けるその仕事は、きっとあなたの一言から始まるのです。
でも、だからこそ語り続ける価値があります。

薬の進化を届ける仕事は、きっとあなたの言葉から始まります。

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薬剤師。ヤクマニドットコム編集長。
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※本記事は薬学生および薬剤師など、医療関係者を対象とした教育・学術目的の情報提供です。医薬品の販売促進を目的としたものではありません。
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