ケレンディアが心不全適応取得 ― フィネレノンはHFpEF治療を変えるのか?MRAの歴史から読み解く心腎連関の新時代

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ケレンディア(一般名:フィネレノン)は、2025年12月22日に日本で慢性心不全(LVEF≧40%:HFmrEF/HFpEF)への適応追加承認を取得しました。対象は日本人を含む約6,000例の国際第III相試験(FINEARTS-HF)で、主要評価項目で心血管死+心不全イベントがプラセボ比で16%有意低下(発生率比0.84、95%CI 0.74–0.95、p=0.0072)することが示されました。ケレンディアは従来のステロイド型MRA(スピロノラクトン・エプレレノン)とは異なる非ステロイド型MRA(nsMRA)で、高いMR選択性により抗炎症・抗線維化作用を発揮します。従来MRAに比べ有効性は同等ながらホルモン副作用や高カリウム血症リスクが相対的に低い設計です。用法・用量はeGFRに応じ20~40mg(1日1回、4週後に漸増)で、開始1か月後および定期的な血清K・eGFRモニタリングが必須とされています。ガイドライン(2025年JCS/JHFS心不全診療ガイドライン)ではHFmrEF/HFpEFに対しクラスIIa推奨となり、4本柱に加え「炎症・線維化抑制」の新たな柱となる可能性があります。若手薬剤師は、ケレンディアが腎保護薬でありながら心不全予防にも寄与する薬であることを理解し、患者・医師への適切な説明やモニタリング指導を行うことが求められます。

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ケレンディアとは何者か?

ケレンディア(フィネレノン)は「非ステロイド型選択的ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(nsMRA)」です。従来のMRAであるスピロノラクトンやエプレレノンはステロイド骨格を持つのに対し、フィネレノンは非ステロイド構造でMRへの結合が高選択的です。これにより余計なホルモン受容体への作用が少なく、スピロノラクトンにみられる女性化乳房などの副作用が起こりにくいとされています。動物実験では、フィネレノンはステロイド型MRAと同等以上の抗炎症・抗線維化作用を示し、腎・心筋の線維化や肥大を抑制していることが報告されています。このようにMR過剰活性による慢性炎症・線維化を抑える薬で、2型糖尿病合併CKDにおける心腎保護効果が明らかとなり、2022年に同適応で承認されました。今回はその拡大適応で、HFpEF領域にフィネレノンが投入された意義は大きいと言えます。

既存のCKD適応と主要試験データ

ケレンディアはこれまで「2型糖尿病を合併する慢性腎臓病(CKD)」に対する治療薬として日本で承認されてきました。この背景には、第Ⅲ相試験FIDELIO-DKDおよびFIGARO-DKDがあります。これらの統合解析(FIDELITY)では、フィネレノン群はプラセボ群に比べ腎複合エンドポイント(末期腎不全、持続的eGFR低下、腎死)のリスクを23%低下、心血管複合エンドポイント(心血管死、非致死性心筋梗塞、脳卒中、HF入院)も14%低下しました。日本人を含むアジア人集団解析ではさらに心血管リスク10%減、腎リスク36%減の効果が示されました。またFIDELITYではフィネレノン投与4ヶ月後からのeGFR低下スロープが有意に改善し、40%以上の持続的eGFR低下リスクを低減。このように腎保護薬でありながら心血管イベントも抑制する驚きのデータが得られ、「心腎連関」の効果を示しました。薬剤師は「腎臓薬として始まったが、実は心臓も守る薬」と語ることで、患者や医師への説得力が増します。

HFpEFの病態と適応意義

HFpEFは、高血圧や肥満、糖尿病などの複数の危険因子が背景にあり、慢性的な炎症・線維化や左室硬化が病態の本質と考えられています。MRの過剰活性は心臓組織で炎症性サイトカインやコラーゲン産生を促し、心筋肥大・間質線維化を進めます。従来、HFpEFに対する有効な薬は限られ、利尿薬で症状改善するのみでした。ここに 抗線維化作用を持つフィネレノン が登場したことで、病態に根本からアプローチする新機軸が加わりました。実際FINEARTS-HFではHFpEF/HFmrEF群で心血管死・HF悪化イベントが有意減少し、HFpEF治療に新たな選択肢が誕生したと言えます。

FINEARTS-HF試験(第III相)

FINEARTS-HF試験は、日本人を含むLVEF40%以上の慢性心不全患者約6,000例を対象にした多国間共同の第Ⅲ相試験です。患者は「標準治療を受ける慢性心不全」(要ACE阻害薬/ARB/ARNI、β遮断薬など)であり、フィネレノン群とプラセボ群に1:1無作為割付けされました。主要エンドポイントは「心血管死または全HFイベント(入院または緊急受診)の総和」で、結果はフィネレノン群で16%有意に低下(発生率比0.84、95%CI 0.74–0.95、p=0.0072)しました。忍容性は良好で、副作用プロファイルも既知の範囲内でした。サブ解析では肥満・糖尿病・高血圧の有無で効果に大きな差はなく、SGLT2阻害剤併用例でも同様の効果が示されています(医師向けニュースより)。この試験で得られたエビデンスが、厚労省の承認取得に直結しています。

従来MRAとの違い

有効性:ステロイド型MRA(スピロノラクトン、エプレレノン)はHFrEFの生存改善効果が確立していますが、HFpEFではエビデンス不十分でした。TOPCAT試験では米国データ解析で心血管死/HF入院を減少させましたが、フィネレノンはHFpEF/HFmrEFに対して新たにエビデンスを示しました。

安全性:前述のように、フィネレノンはステロイド骨格を持たずMR選択性が高いため、女性化乳房など性ホルモン関連副作用がほぼありません。また薬理学的に心臓と腎臓に均等分布し、血中半減期が短い特徴から高カリウム血症のリスクがステロイドMRAに比べ低いとされています。実際、短期試験ARTSではフィネレノン群の血清K上昇や高K症発症率はスピロノラクトン群より小さく報告されました。とはいえ高K症はゼロではなく、血中カリウムの定期測定は必須です。禁忌・注意として「開始時カリウム5.5mEq/L超は投与しない」「重度肝障害」「アジソン病」などが挙げられます。

臨床での使い方

ケレンディアの適応基準は「LVEF≧40%の慢性心不全患者(標準治療下の患者)」です。投与開始前にLVEF測定結果の記録が求められており、LVEF<40%(HFrEF)は適応外とされます。用量は腎機能に応じて設定され、HFの場合はeGFR≧60で20mgから開始し約4週後に40mgに増量、eGFR25~60で10mgから開始し約4週後に20mgに増量するのが標準です。もちろんカリウム値やeGFRを確認しながら慎重に増量します。投与前・開始後1か月・以降定期的に血清カリウム値・eGFRをチェックし、表に従って用量調節します。開始前にK値が5.5mEq/L超であれば投与禁忌、5.0~5.5は慎重投与です。投与中にK>5.5超となった場合は中止し、K降下後に10mgから再開できます。相互作用では強力なCYP3A4阻害薬(イトラコナゾール、クラリスロマイシン、HIVプロテアーゼ阻害薬など)は禁忌です。心不全治療薬全般(ACE阻害薬/ARB/ARNI、β遮断薬、SGLT2阻害薬など)とは併用が前提で、むしろSGLT2阻害薬との併用で相乗効果が期待されています。薬剤師としては、処方内容と検査データをよく確認した上で、上記の投与基準・モニタリングを遵守することが重要です。

ガイドラインへの影響と今後の位置づけ

2025年改訂JCS/JHFS心不全診療ガイドラインでは、HFmrEF/HFpEFに対するフィネレノン投与が「使用を考慮すべき治療(クラスIIa)」に位置づけられました。左室駆出率50%以上(HFpEF)および41~49%(HFmrEF)の患者に対して推奨されています。これにより、ガイドラインで言及されていた理論上の治療オプションが実臨床で使えるようになったわけです。今後、ガイドライン改訂でHFmrEF/HFpEFの標準治療に正式に組み込まれることが期待されます。心不全治療は従来、①RA系抑制(ACEi/ARB/ARNI)、②β遮断、③MRA、④SGLT2阻害の「4本柱」でしたが、フィネレノンは「炎症・線維化層」を担う第5の柱になるかもしれません。将来的にはHFpEFだけでなく、既存の標準治療に加えて組み合わせて使う総合治療戦略の一部となるでしょう。

薬剤師として患者・医師に伝えるべきポイント

  • 心臓にも効く腎臓薬:患者に「これ、腎臓の薬でしょ?」と聞かれたら、「実は心臓の線維化も抑えて、心血管イベントを減らす効果がある薬です」と説明しましょう。CKD適応試験でも心臓イベント減少が示されています。
  • 標準治療併用下のHFmrEF/HFpEF対象:フィネレノンはあくまでLVEF≧40%で他の心不全治療中の患者が対象です。処方前にLVEFを確認し、対象患者であることを確認するよう医師に促します。
  • 用量と検査の重要性:開始時はまず血清カリウムとeGFRのチェックを勧め、不足の場合は10mgから開始、4週間後に増量することを説明します。投与中もカリウムを定期測定し、数値に応じて減量・中止が必要になる旨を患者に伝えましょう。
  • 副作用・相互作用:高カリウム血症のリスクを伝え、野菜・果物の制限や利尿剤併用などで管理する方法を説明します。女性化乳房などの副作用はまれですが、重度肝障害やアジソン病には禁忌であること、CYP3A4阻害薬とは併用不可であることも告知します。
  • CKD患者への予防効果:糖尿病や腎臓病のある患者には、フィネレノンによる心不全予防効果もあることを伝えられます。HbA1cや蛋白尿の改善は限定的ですが、将来のHF発症リスク低減に寄与する可能性を説明しましょう。

臨床上の注意点と未解決課題

  • 対象患者の厳格化:フィネレノンはHFrEF(LVEF<40%)の有効性・安全性は確立しておらず、LVEF保たれたHFのみに限定されています。処方時には必ず最新のLVEFを確認する必要があります。
  • 高カリウム血症管理:フィネレノンでも高K症は起こりうるため、他の高Kリスク薬との併用(例:ACEi/ARB、アルダクトン)は慎重に。必要時には利尿薬追加などで対策します。
  • 小児・妊婦・高度腎機能障害:これらの患者での安全性は不明であり、禁忌(特に末期腎不全・透析中は除外)です。妊婦・授乳婦への投与経験はありません。
  • 長期予後への影響:FINEARTS-HFでは心不全イベントは減ったものの、全死亡では有意差が出ていません。今後、より長期の観察や実臨床データで予後改善効果を検証する必要があります。
  • 治療の組み合わせ:SGLT2阻害薬やARNIとの併用効果は注目されます。フィネレノンはSGLT2阻害薬と作用機序が異なるため相加的効果が予想されますが、現時点で組み合わせ投与の最適な時期・順序は明確ではありません。
  • 費用対効果:新薬であるため薬剤費は高く、保険償還がHFrEFほど明確ではありません。
  • 未解明の効果群:副腎疾患や特定の心筋疾患への有効性は不明であり、今後の実臨床データが待たれます。

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