バイオ後続品はなぜ普通の後発医薬品と同じではないのか 承認の思想から読み解く

薬剤師が語る-薬の歴史と-治療戦略の変遷 実務で語れるネタ
薬剤師が語る-薬の歴史と-治療戦略の変遷

バイオ医薬品とは、遺伝子組換え技術や細胞培養技術などを用いて、生

物が持つタンパク質等を作る力を利用して製造される医薬品です。普通の化学合成医薬品と違って、主にタンパク質やペプチドなどの複雑な成分が扱われます。

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「バイオシミラーって、要するにジェネリックですよね」で止まると見えなくなるもの

現場では、バイオ後続品を説明するときに「バイオ版ジェネリック」という言い方が便利です。たしかに入口としては分かりやすいですし、先行品の後に続いて出てくるという意味では、大きなくくりとしてはそう見えます。けれど、そこで理解を止めると、なぜ制度や処方ルールや患者説明の空気がここまで違うのかが見えなくなります。厚生労働省は、後発医薬品とバイオ後続品を同じ土俵で整理しておらず、薬剤の特性、必要な試験、製造販売後調査、処方方法、変更調剤の可否まで分けて示しています。 

若手薬剤師がいちばん引っかかるのは、おそらくここです。普通の後発医薬品なら、生物学的同等性試験で評価するという話は比較的なじみがあります。では、なぜバイオ後続品になると、第Ⅰ相や第Ⅲ相、製造販売後調査、品質特性の高い類似性といった言葉が前面に出てくるのか。なぜ「同じような後続品」なのに、承認のされ方がこんなに重いのか。答えは、バイオ後続品が特別に危ないからではありません。そもそも、先行品との関係をどう証明するかという承認の思想そのものが違うからです。 

普通の後発医薬品は「同じ有効成分」が強い土台になる

普通の後発医薬品では、先発医薬品と有効成分、成分量、投与経路などが同一であることが前提に置かれます。厚労省資料でも、後発医薬品は先発医薬品と治療学的に同等なものとして整理され、必要な試験は主として生物学的同等性試験、製造販売後調査は原則実施しないと示されています。つまり承認の基本構造は、同じ有効成分を持つ製剤として設計し、そのうえで体内への入り方が同程度であることを確認して、臨床的にも同等とみなす、という流れです。 

この構造があるから、後発医薬品は日常実務の中で「先発から後発へ」という置換えの文法に乗りやすいのです。もちろん添加物差や剤形差、供給、適応の細かな確認は必要です。それでも、承認思想の中心に「同じ有効成分」という強い柱があるので、制度も説明も比較的整理しやすい。後発医薬品の実務がここまで日常化した背景には、この承認ロジックの分かりやすさがあります。 

バイオ後続品では、そこから話が変わる

一方で、バイオ後続品は同じ文法では扱えません。厚労省の一般向け解説資料では、ジェネリック医薬品は品質特性解析による先発医薬品との有効成分の同一性の確認と、生物学的同等性試験による評価が行われるのに対し、バイオシミラーは「複雑な構造、生物活性、不安定性、免疫原性等の品質特性」から、先行バイオ医薬品との有効成分の同一性の検証が困難だと説明されています。そのため、品質特性解析で高い類似性を十分に確認したうえで、さらに非臨床・臨床試験によって、先行バイオ医薬品と同じ効能・効果、用法・用量で使える、すなわち同等/同質であることを検証する枠組みが採られています。 

ここで大事なのは、「バイオ後続品は先行品と違う薬だ」と単純化しないことです。そうではありません。より正確には、先行品と完全な同一性を確認するという文法で承認するのが難しい、ということです。だから制度側は、最初から「同一」ではなく「同等/同質」という概念で設計しています。これは言葉遊びではなく、承認審査の出発点そのものです。 

なぜ同一性の検証が難しいのか

では、なぜ難しいのか。ここを曖昧にすると、読後にモヤモヤが残ります。

理由の一つは、バイオ医薬品の品質特性が、化学合成の低分子医薬品よりずっと複雑だからです。厚労省は、バイオシミラーの難しさとして、複雑な構造、生物活性、不安定性、免疫原性を挙げています。PMDAの指針でも、品質特性の高い類似性を示すことが開発の中心であり、その差異が臨床的な安全性や有効性に影響しないことを科学的に正当化する枠組みであるとされています。つまり問題は、単に立体構造が複雑だというだけではありません。高次構造や修飾、生物活性、安定性、免疫学的な振る舞いまで含めた品質属性全体が、最終的な薬効や安全性と結びついていることです。 

もう一つの理由は、バイオ医薬品が製造工程の影響を強く受けることです。PMDAの指針では、バイオ後続品の開発者は先行バイオ医薬品の製法に関する詳細な情報を持たず、利用できる品質情報にも限界があることが前提になっています。つまり、先行品と同じ設計図を見ながら同じものを再現する世界ではありません。細胞株、培養条件、精製工程、製剤化の違いが品質特性に影響し得るため、先行品と同じ製法であることを前提にした証明はできない。だからこそ、できあがった製品を多面的に比較し、その差異が臨床上問題ないと示していくしかないのです。 

ここで「四次構造だから難しい」と一言で片づけたくなりますが、それでは少し足りません。実際には、立体構造の複雑さに加えて、生物活性、不安定性、免疫原性、製造工程依存性、利用できる情報の限界が全部重なっているから難しいのです。だからバイオ後続品を理解するときは、「複雑な分子」だけでなく、「複雑な品質特性を、限られた条件の中で比較していく医薬品」と捉えた方が正確です。 

だから承認に必要な試験の組み立てが変わる

承認の前提が違えば、当然、必要な試験も変わります。厚労省資料では、後発医薬品は生物学的同等性試験が基本である一方、バイオ後続品では同等性/同質性評価の治験が必要で、第Ⅰ相、第Ⅲ相試験が整理されています。これは「バイオ後続品だから慎重にたくさん試験する」という話ではありません。そうではなく、同一性の検証が困難だから、品質特性解析だけで残る不確実性を、非臨床・臨床のデータで埋めていく構造になっているのです。 

PMDAの審査報告書でも、この考え方ははっきり見えます。実際のバイオ後続品の審査では、「PK及び臨床的有効性に係る先行バイオ医薬品との同等性検証が臨床データパッケージの中心」と記載され、PKの同等性試験と有効性の同等性試験が評価資料として位置づけられています。つまり、品質比較だけで終わるのではなく、人の体内でどう振る舞うか、患者で見たときに臨床的に同等と言えるかまでを含めて承認が組み立てられている、ということです。 

ここは実務でもかなり大事です。患者さんに「ジェネリックと同じですか」と聞かれたとき、「似た後続品です」とだけ答えるのと、「普通の後発医薬品と違って、品質の比較に加えて臨床での同等性まで積み上げて承認されている薬です」と答えるのとでは、説明の厚みがまったく違います。医師や看護師との会話でも、この違いを理解している薬剤師は、制度の話を単なるルールでなく根拠から語れます。 

製造販売後調査まで含めて「見続ける」設計になっている

違いは承認時だけで終わりません。厚労省資料では、後発医薬品は製造販売後調査を原則実施しないのに対して、バイオ後続品は原則実施すると整理されています。これはバイオ後続品が特別に危険だから、という意味ではありません。承認前に多面的に同等性/同質性を評価しても、バイオ医薬品としての特性を踏まえれば、承認後の実使用下でも適切に情報を集めていくことが制度上求められている、ということです。 

この視点は、薬局実務にも直結します。バイオ後続品は、ただ「先行品より安い選択肢」として見るよりも、どういう根拠で同等に扱えるのかを理解し、製品名や切替え時の経過、デバイス、保管、患者の受け止め方まで含めて丁寧に扱う薬として見る方が、現場感覚に合います。制度が製造販売後まで視野に入れている以上、薬剤師の説明や観察の質も、その文法に合わせる必要があります。 

だから処方と調剤のルールも、普通の後発医薬品と同じにはならない

承認の思想が違うなら、制度が同じ文法で運用されないのも当然です。厚労省資料では、後発医薬品は一般名処方、変更調剤可という整理である一方、バイオ後続品は銘柄名処方、変更調剤不可とされています。ここだけを抜き出すと、制度が厳しいからそうなっているようにも見えます。しかし本質は逆です。先に承認ロジックの違いがあり、その結果として処方と調剤のルールが違っているのです。 

だから、バイオ後続品を普通のジェネリック感覚で説明すると、どうしてもどこかで無理が出ます。なぜ銘柄名処方なのか。なぜ薬局が自動的に置換える世界になっていないのか。なぜ説明責任が重いのか。これらはすべて、先行品との関係を「同一成分+生物学的同等性」で整理する世界ではないからです。ここが見えると、2026年度改定で新設されたバイオ後続品調剤体制加算が、単なる新しい点数ではなく、「理解して扱う体制」に報酬がついたものだという意味も見えてきます。 

薬剤師が見るべきなのは「同じか違うか」ではなく「どう同等性が支えられているか」

実務で強い薬剤師は、「これは変更できる」「できない」を覚えているだけの人ではありません。なぜそのルールになっているのかを理解している人です。バイオ後続品を理解するときも、先行品と同じか違うかの二択で考えるより、「どのような品質比較と臨床データの積み上げによって、同等/同質と判断されているのか」を見る方が本質に近づきます。 

この視点があると、患者対応も変わります。監査でも、単に名称が違う薬ではなく、承認の構造そのものが違う薬として見られるようになります。疑義照会でも、処方意図の理解が深まります。多職種連携でも、価格や供給だけでなく、なぜ慎重な説明が必要なのかを共有しやすくなります。バイオ後続品は、普通の後発医薬品と同じではない。けれどそれは、曖昧だからでも、怪しいからでもありません。承認の設計図そのものが違うからです。そして、その違いを理解していること自体が、これからの薬剤師の強みになります。

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