薬剤師のためのステーブルコイン入門:JPYCが拓く医療の未来

薬剤師が語る-薬の歴史と-治療戦略の変遷 疾患分類なし
薬剤師が語る-薬の歴史と-治療戦略の変遷

この記事では、薬剤師・薬局経営者向けに、最近注目される日本円連動ステーブルコイン(特にJPYC)の基礎知識と医療・薬局業界での活用可能性を解説します。ステーブルコインとは何か(ビットコインなどとの違い)を整理し、JPYCの発行体や仕組みを紹介します。また、在宅医療や患者決済、薬局と卸売業者間の取引といった薬局業務への影響、さらにはDeFi・ステーキングを通じた資産運用との関係も考察します。Web3技術が医療分野で使われている事例(健康アプリでの報酬、医薬品流通の追跡、テレメディスンの暗号資産決済など)にも触れ、薬剤師として知っておきたいリスクや規制動向、将来展望をまとめます。

ステーブルコインとは何か

ステーブルコインは、法定通貨や金など一定の資産に価値を連動させるよう設計された仮想通貨トークンです 。たとえば、米ドルと連動する「USDT」(テザー)や「USDC」(サークルが発行)は、1コイン=1ドルを目安に価値が安定するように運用されています 。これらは暗号資産市場での“円・ドルと同じ価値を持つお金”として使われるため、ビットコインのような激しい価格変動リスクが抑えられており決済手段としての実用性が高いのが特徴です 。実際、2014年には米ドル担保で1:1交換を保証する最初のステーブルコイン「テザー(USDT)」が登場し 、以降イーサリアム上のUSDCやBinanceのBUSD、アルゴリズム型ではMakerDAOのDAIなど、多数の銘柄が生まれています 。日本でも円に連動する「JPYW」などステーブルコインの開発が進められています 。

ステーブルコインの大きな利点は、ブロックチェーン上で24時間決済が行え、海外送金でも手数料が低く迅速に送金できる点です 。つまり、銀行口座やクレジットカードを通さずとも、スマホひとつで即座に送金・受取できる可能性があります。仮想通貨特有の価格変動を気にせずにデジタルマネーを使える点から、その実用性は高く評価され、2024年のステーブルコイン年間取引量はVisa/ MasterCard合計を上回る規模に達すると指摘されています(米国CEX.IO調べ) 。ただし、既存の銀行や政府もこの動きを注視し、各国で規制整備が進んでいます。例えば米国では「GENIUS法」により利回り付きステーブルコインが禁止され、イーサリアムなどDeFi市場への資金流入を促す動きになっています 。日本でも2023年6月の資金決済法改正で「ステーブルコインを電子決済手段」として制度化され、JPYCなどの円連動コインが正式に認められる環境が整いつつあります 。

日本円ステーブルコイン「JPYC」の仕組み

日本初の円連動ステーブルコイン「JPYC」は、フィンテック企業JPYC株式会社が発行主体です 。1JPYCは基本的に1円と連動するよう設計されており、ビットコイン等に比べ価格変動リスクが非常に小さいのが特徴です 。JPYCはイーサリアムやポリゴンなど複数のパブリックブロックチェーン上に発行され、取引記録は誰でも閲覧可能な公開台帳に記録されるため、透明性も高いと言われています 。日本では法的にステーブルコインは「前払式支払手段」等に分類されるため、JPYCも資金決済法に基づく規制対象となります 。2025年8月には金融庁がJPYC株式会社を資金移動業者として認可し、日本円ステーブルコインの正式発行が認められる見通しです 。

JPYCには、2021年から流通している「JPYC Prepaid」と、今後発行予定の「JPYC」「JPYC Trust」という3つの形態があります 。まずJPYC Prepaidは、従来の前払式支払手段として扱われ、JPYC社のサイトから1JPYC=1円で常時購入できます 。市場に出回った二次流通の価格もほぼ1円に維持されています 。一方、新たに発行される「JPYC」および「JPYC Trust」は、資金移動業登録を経て電子決済手段として流通する予定です。JPYCは発行体がユーザーから申し込みを受けて円を集め、それに応じて自動的にJPYCコインをデジタルウォレットに付与する仕組みとされ、裏付け資産(円預金や国債等)を担保として1:1の価値を維持する計画です 。JPYC Trustは信託銀行が発行し、マネーロンダリング防止の観点から信託口座で資産を分別管理する仕組みになります。いずれも「円を裏付けにした安定的なデジタル通貨」として、法規制下でのユーザー保護が図られる点が特徴です 。

現在のところ、国内には他にも銀行発行型の円ステーブルコイン(例:DCJPY、Progmat Coinなど)の構想があり、将来的には競争が激しくなる可能性も指摘されています 。JPYC社自身は「日本円ステーブルコイン市場の中で最も認知度が高く、発行量シェア99%以上」と主張していますが、政府系のデジタル通貨(中央銀行デジタル通貨:CBDC)が実現すれば、ステーブルコイン全体の位置付けも変化しうるでしょう。

薬局業務にどう関係するか

患者決済・医療ツーリズム:   薬局での患者支払いに直接ステーブルコインを使う例はまだ始まっていませんが、海外患者向けの事例はあります。実際、オンライン診療アプリ「SOKUYAKU」は2025年10月以降の海外患者向け決済にビットコインを導入する計画を発表しました 。これは国際送金の高額手数料や時間遅延、為替変動リスクを解消する狙いです。円連動のステーブルコイン(例えばJPYC)であれば、これらのメリットを享受しつつ為替リスクも抑えられる可能性があります。将来的には、在宅医療で処方薬を宅配する際の支払いや、外国人患者からの直接支払いにステーブルコインが使われるシーンも考えられるでしょう。例えば「SOKUYAKU」でもビットコインを「決済手段」と位置づけているように 、暗号資産自体が医療決済への道を開くかもしれません。

社員向け健康促進・サプリメント報酬: もう一つの応用例として、社員の健康活動への報酬にJPYCを使う動きがあります。健康管理アプリ「運動サプリ®」の開発企業は、従業員の歩数に応じてJPYCを付与するPoC(実証実験)をJPYC社と共同で開始しました 。ステーブルコインを使えば価格変動を気にせずに一定価値のインセンティブを提供できるため、既存のギフトカードやポイントに代わる選択肢として注目されています 。実験ではウォーキング目標達成度に応じてJPYCが自動付与され、他の社員に共有できる仕組みも設けられています 。このように、医療・健康分野では「行動に応じた報酬通貨」としてステーブルコインを活用する動きが始まっています。

Sense It Smart社の「運動サプリ®」アプリでは、ブロックチェーンで歩数を記録し、一定の歩数を達成すると日本円ステーブルコインJPYCを自動付与する仕組みを構築中です 。JPYCの価格が安定しているため、従業員にとってインセンティブも分かりやすいのが狙いです。

医薬品流通・サプライチェーン: さらに広い視点では、医薬品流通にもブロックチェーン技術の導入が進んでいます。日本IBMは2023年4月から、Hyperledger Fabricベースで医薬品流通の可視化プラットフォームを検証中です 。これにより偽造薬の排除や在庫管理の効率化が期待されます。将来的にこのような流通記録プラットフォームとステーブルコイン決済が組み合わされば、医薬品の売買・決済の信頼性とスピードが一段と向上する可能性があります 。ただし現状、国内調剤薬局は保険制度下で運営されており、代金回収には国保・健保連合の審査など既存システムが深く絡むため、ステーブルコイン導入には制度面での課題も少なくありません。

投資・DeFiとのつながり

ステーブルコインは資産運用の文脈でも使われます。価格変動が少ないため、ビットコインやアルトコインに投資する前段階の資金待避先として保有したり、レンディングやステーキングで利息を得たりする活用法が一般的です。たとえば、分散型金融(DeFi)プラットフォームでは、USDTやUSDCを貸出して利回りを得る仕組みがあります 。ステーブルコイン自体はProof-of-Stakeではないため直接「ステーキング」できませんが、DeFiプロトコルに預けて流動性を提供することでリワードを受け取れます 。具体的には、AaveやCompoundといった貸借プラットフォームでUSDT/USDCを貸し出し、年数%程度の金利を得る例が見られます(取引所やプラットフォーム次第でAPYは変動します )。日本円ステーブルコインも将来的には同様の使い道が想定でき、JPYCを貸出して新興DeFiで利息を狙う、といった運用が可能になるかもしれません。

しかし、投資面では規制リスクにも注意が必要です。米国では2023年成立のGENIUS法により「利回り付きステーブルコイン」の発行が禁止されました 。これは、ステーブルコイン保有者にステーキングや貸付で利息を支払う仕組みを禁じるもので、利回り目的にステーブルコインを保持していた投資家に影響を与えました 。結果的にアナリストは「ステーブルコインで得られる利息がなくなると、代わりにイーサリアム基盤のDeFiで利回りを求める動きが強まる」と指摘しています 。つまり、ステーブルコイン運用の魅力は国や法整備の動向に左右されるため、薬剤師としても最新の規制をウォッチすることが重要です。

医療×Web3の事例

Web3技術は医療業界にも浸透しつつあります。前述の健康経営アプリ「運動サプリ®」に加え、ブロックチェーンによる医薬品管理では前述のIBM事例 のように医薬品の流通経路追跡が試みられています。患者の診療記録や処方情報をブロックチェーンに記録する研究も進んでおり、改ざん防止や共有の効率化が期待されています。さらに先進事例では、海外美容クリニックがビットコイン決済を導入するなど、クリニック単位で仮想通貨決済が試されています(湘南美容クリニックでは一時期ビットコイン決済を導入していましたが、現在は停止中です)。これらはステーブルコインそのものではありませんが、「暗号資産が医療・医薬の決済手段になる可能性」を示しています。

今後、仮に医療・健康分野でWeb3技術が本格展開すれば、患者向けアプリやサプライチェーン、保険請求などさまざまな局面でステーブルコインが役立つシーンが出てくるでしょう。たとえば、オンライン診療料の決済や、海外医療ツアーの費用支払いにステーブルコインを利用できれば、為替や送金手数料の問題が解消されます。また、医療研究データの共有にブロックチェーンが使われれば、その対価をステーブルコインで精算するといった応用も考えられます。現時点で具体的な実装例は少ないものの、薬剤師としては「ブロックチェーン上で価値が流通する世界」が徐々に現実味を帯びていることを認識しておくとよいでしょう。

ステーブルコインのリスクと薬剤師としての視点

ステーブルコインは「安定している」一方で全くリスクがないわけではありません。まず技術的リスクとして、JPYCのように複数のブロックチェーン上で発行される場合、それぞれのネットワーク安定性に依存します 。特定のチェーンで障害やハッキングが起こると、そこに記録されたJPYCが利用できなくなる可能性があります。また、異なるチェーン間を移動させる際に用いられるブリッジ(橋渡し技術)には脆弱性が指摘されており、資産消失事故のリスクがあります 。制度面でも注意が必要です。JPYCのような国内ステーブルコインは日本の法律下で前払式支払手段として規制されますが、銀⾏系のステーブルコインやCBDCの動向によっては市場環境が大きく変わる可能性があります 。また、ステーブルコイン企業の経営リスク(資産管理の不透明さなど)により過去に問題が発生した例もあり、信用できる発行体かどうかの見極めは重要です。

薬剤師として留意すべきことは、新しい技術に過度な期待を抱かず、「業務上必要か」を冷静に判断することです。たとえば患者からJPYCで支払いを受ける場合、現状ではそのまま円に戻すしくみや料金の記帳方法が未整備です(税務や保険制度との整合性も課題)。投資的側面で言えば、ステーブルコイン自体の価格安定性は高くても、市場が仮想通貨全体に連動してわずかに変動することや、安定資産が担保切れとなった場合の危機(過去の例で一部ステーブルコインがペグを失った事例もあります)にも注意が必要です。規制環境が急速に変わる点にもアンテナを張り、自己資産運用で使う場合は余剰資金に留める、仮に決済導入する際は安全性確保を最優先にするなど、リスク管理を徹底しましょう。

まとめ:ステーブルコインと薬局の未来

  • ステーブルコインとは、法定通貨など価値が安定した資産に連動するよう設計された仮想通貨です。価格変動リスクが小さく、従来のビットコインと比べて決済向きとされます 。
  • JPYCの特徴は、日本円に連動する点で、1JPYC=1円を目安に価値が設計されています 。JPYC株式会社が発行主体で、2025年秋の正式発行が見込まれています 。国内では法規制下で「前払式支払手段」に分類されるため、金融機関による資金管理や監査も想定されます 。
  • 薬局業務への活用可能性: 具体例として、社員健康アプリでJPYCを報酬に用いる実証実験が進行中です 。またオンライン診療サービスがビットコイン決済を導入予定であるように 、ステーブルコインも将来の決済手段候補になり得ます。在宅医療や海外患者対応の支払い、BtoB取引の効率化など、多様なユースケースが考えられます。
  • 投資・DeFiとの関係: ステーブルコインは資産運用やDeFiでも重要な役割を果たします。USDTやUSDC等を貸出して利息を得る運用が行われています 。ただし米国では利息付与が規制される動きもあり 、国内でも法整備動向を注視する必要があります。
  • Web3×医療の事例: IBMの医薬品流通プラットフォーム検証 やJPYCを使った健康増進アプリ など、ブロックチェーン技術は医療現場に徐々に入ってきています。薬剤師としてはこれらの動きを知り、自身の業務との親和性を探っておくとよいでしょう。
  • リスクと展望: ステーブルコインは安定性が高い一方で、技術的不具合や規制変更などリスクもあります。薬局が扱うには業務フローの整理と安全対策が不可欠です。一方、ステーブルコインやデジタル通貨の活用によって、将来的には決済や資産管理の新しい形が実現する可能性があります。日々進展するWeb3・法規制の情報をキャッチアップしつつ、変化に対応する体制づくりをしておくことが重要です。
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薬剤師。ヤクマニドットコム編集長。
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※本記事は薬学生および薬剤師など、医療関係者を対象とした教育・学術目的の情報提供です。医薬品の販売促進を目的としたものではありません。
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