フォシーガのジェネリックはなぜ2型糖尿病のみ?ダパグリフロジン“虫食い適応”の理由

薬剤師が語る-薬の歴史と-治療戦略の変遷 疾患分類なし
薬剤師が語る-薬の歴史と-治療戦略の変遷

背景:SGLT2阻害薬の登場と進化

SGLT2阻害薬は2010年代半ばに登場した新しい糖尿病治療薬です。血糖を尿中へ排泄させることで血糖値を下げるユニークな作用機序を持ち、従来の薬剤とは異なるアプローチとして脚光を浴びました。クラス最初の製品はアストラゼネカのダパグリフロジン(商品名フォシーガ)で、世界初のSGLT2阻害薬として2012年に欧州、2014年には日本で2型糖尿病治療薬として発売されています 。その後、同系統のカナグリフロジンやエンパグリフロジン(ジャディアンス)なども次々と上市され、SGLT2阻害薬は糖尿病治療の主力の一つとなりました。

興味深いのは、このクラスの薬が糖尿病以外の領域での大きなベネフィットを示し始めたことです。当初は血糖降下薬として開発されたSGLT2阻害薬ですが、2015年以降に報告された大規模試験から心臓や腎臓への保護効果が相次いで見出されました。例えば、2型糖尿病患者を対象とした試験で心不全悪化や腎機能低下を抑制する結果が示され 、「糖尿病の薬が心臓も腎臓も守る!」という従来の常識を覆すエビデンスが蓄積されたのです。こうした背景から、SGLT2阻害薬は今や心不全治療薬や腎臓病治療薬としても注目されるようになり、循環器内科や腎臓内科でも処方される機会が増えています。

フォシーガの適応拡大の歩み

今回の主役であるフォシーガ(一般名ダパグリフロジン)の日本における適応症拡大の歴史を振り返ってみましょう。その歩みはSGLT2阻害薬の可能性を象徴するものでもあります。

  • 2014年3月:「2型糖尿病」で承認・発売 – フォシーガ錠5mg/10mgが日本で承認されたのは2014年3月で、効能・効果は「2型糖尿病」でした 。国内ではこの時点で既に他にもイプラグリフロジンなど同系統薬が存在しましたが、フォシーガはその代表的な一剤となりました。発売当初はあくまで血糖コントロール目的の糖尿病薬です。
  • 2019年3月:「1型糖尿病」の適応追加 – それから5年後、フォシーガは日本で1型糖尿病への効能追加承認を取得しました 。インスリン治療だけでは血糖コントロールが困難な成人1型糖尿病患者に対し、インスリン療法の補助としてSGLT2阻害薬を併用するという新たな可能性が認められた形です。ただし1型糖尿病患者ではケトアシドーシスのリスク増加が知られているため、この適応は慎重に扱われ、リスク管理計画の下で提供されました(欧州では承認後に安全性懸念から適応取り下げとなった経緯もあります)。
  • 2020年11月:「慢性心不全」の適応追加 – フォシーガはさらに心臓領域へ踏み出します。2020年11月、「慢性心不全(ただし慢性心不全の標準的治療を受けている患者に限る)」の効能・効果追加が承認されました 。国内でSGLT2阻害薬が心不全治療薬として承認されたのはこれが初めてであり 、糖尿病の有無を問わずハーフェフ(HFrEF:左室駆出率低下型心不全)患者に対する新たな選択肢となりました。承認の根拠となったDAPA-HF試験では、従来の心不全標準治療にフォシーガを追加することで心不全悪化(入院や緊急受診)や心血管死のリスクを26%低減することが示されています 。これは画期的な成果で、フォシーガは**「糖尿病薬」から「心不全の薬」**へと大きく躍進しました。なお添付文書上は「左室駆出率の低下した慢性心不全患者に投与すること」と明記され、駆出率が保たれた心不全(HFpEF)への有効性は未確立である点に注意が付されています (※その後、この点はエンパグリフロジンの試験結果なども踏まえ、ジャディアンスでは駆出率を問わない心不全適応へと拡大しています)。
  • 2021年8月:「慢性腎臓病(CKD)」の適応追加 – そして翌2021年8月、ついに腎臓領域への効能追加が承認されました。「慢性腎臓病(ただし末期腎不全または透析中の患者を除く)」がフォシーガの新たな適応症に加わり、日本で初めてのCKD治療薬となったのです 。この承認は第III相DAPA-CKD試験の圧倒的に良好な結果に基づいており 、糖尿病の有無を問わずステージ2~4の慢性腎臓病患者において腎不全への進行・心血管死・腎不全死の複合リスクを39%も低減し、全死亡も31%減少させるという画期的データが示されました 。まさに“ランドマーク”と言える試験結果で、日本腎臓学会からも「多くのCKD患者にとって大きな希望となる」との評価がなされています 。こうしてフォシーガは糖尿病・心不全・腎臓病という三領域にわたる効能を持つ薬剤へと成長しました。

以上のように、フォシーガ先発品(ブランド品)の添付文書上の適応症は現在4つです:「2型糖尿病」「1型糖尿病」「慢性心不全(標準治療施行中の患者に限る)」「慢性腎臓病(末期腎不全・透析中を除く)」。まさにマルチに活躍する薬となったわけですね。

DAPA-HF試験・DAPA-CKD試験で示された新たな価値

上記で触れた心不全とCKDの適応追加の裏には、それぞれ大規模国際臨床試験の成功がありました。少し詳しくこの2つの試験について補足します。

  • DAPA-HF試験(心不全):HFrEF(LVEF低下した心不全)患者4,744例を対象に行われた第III相試験です 。糖尿病の有無を問わず、既存の心不全標準治療にプラスしてフォシーガまたはプラセボを投与し経過を追いました。その結果、主要複合エンドポイント(心不全による入院・緊急受診あるいは心血管死)がフォシーガ群で26%有意に低下し 、心不全悪化の抑制効果と生存率改善が示されたのです。SGLT2阻害薬によるこうした心不全転帰の改善は当初想定外の朗報であり、この試験結果を受け世界各国でフォシーガの心不全適応が認められました(日本でも2020年11月承認)。糖尿病薬が非糖尿病の心不全患者にも有効という点は衝撃的で、まさにSGLT2阻害薬が「心臓のお薬」としても脚光を浴びるきっかけとなりました。
  • DAPA-CKD試験(腎臓病):慢性腎臓病(CKD)ステージ2~4の患者4,304例を対象に行われた第III相試験です 。こちらも糖尿病の有無に関わらず組み入れ、標準的な腎保護療法(ACE阻害薬またはARB)にフォシーガorプラセボを追加して検証しました。結果は驚くべきもので、主要複合エンドポイント(腎機能悪化、末期腎不全への進行、心血管死または腎不全死)のリスクが39%も減少し、さらに全死亡も31%減少という有意差が得られました 。副作用リスクを上回る明確なベネフィットが示されたことで、試験は途中で有効性が確認され早期終了となったほどです。これによりフォシーガは日本初のCKD治療薬として承認され 、従来はRA系阻害薬(ACEi/ARB)くらいしか有効策がなかったCKD領域に新風を吹き込みました。「糖尿病がなくても使える腎臓の薬」という点で、多くの腎臓内科医の注目を集めています。

このように、フォシーガの適応拡大は強固なエビデンスに裏打ちされており、医薬品としての価値を飛躍的に高めました。同時に、一つの薬が複数領域の疾患に効果を持つという状況は、医療者にとって嬉しい半面、少々特殊な事態も生み出しています。それが次に述べる**「部分適応」の後発品**の問題です。

フォシーガ後発品登場:適応症は「2型糖尿病」限定

2025年12月、日本の薬局市場に待望のフォシーガ後発医薬品(ジェネリック)が登場しました 。先発品フォシーガは年間売上1,000億円超とも言われる大ヒット薬であり、コスト高を理由にジェネリック化を待ち望む声も多かった薬剤です。そのジェネリックが沢井製薬とT’sファーマの2社から発売され、薬価も先発の約3割程度と大幅に安く設定されました 。処方箋の後発品置換率向上に努める調剤薬局としても、「これは積極的に変更調剤したい!」と思うところでしょう。

ところが…です。実際に発売されたフォシーガ後発品(一般名ダパグリフロジン錠)の添付文書上の適応症は「2型糖尿病」のみとなっていたのです 。つまり、先発品フォシーガが持っている「1型糖尿病」「慢性心不全」「慢性腎臓病(CKD)」の効能・効果は後発品では一切記載されていません 。薬そのもの(成分・規格)は同一なのに、承認された使い道(適応症)が**一部欠けている=“部分適応”**の状態でジェネリックが発売されたわけです。

医薬品名や見た目は違えど、中身の有効成分は同じダパグリフロジンですから、本来であれば糖尿病以外の用途にも効果が見込まれるはずです。**「効能がない」のではなく「効能を書けない」**という事情がここには存在します。このような部分適応の後発品は決して初めてではありませんが(適応追加が後から行われた薬では時折見られるケースです)、フォシーガの場合はその適応範囲が非常に広がっていただけに、ジェネリックとの差が顕著で大きな話題となりました。

実際、2025年12月の発売初月におけるフォシーガ後発品の置換率(数量ベース)はわずか11%程度に留まりました 。通常、新発売から数ヶ月で後発品シェア80%近くまで一気に置換が進む例も珍しくない昨今において、これは極めて低い数値です 。特に**循環器内科では5%、腎臓内科では3%**と、心不全やCKD領域での後発品使用は極端に少なく 、処方の約9割は先発品のまま据え置かれたとのデータもあります 。一方で糖尿病内科では18%がジェネリックに切り替わっており 、診療科によって明暗が分かれた形です。この差こそ、まさに「適応症の違い」が及ぼした影響と考えられます 。心不全やCKDの患者さんでは医師も薬剤師も後発品への切替えに慎重にならざるを得ず、多くが引き続き先発フォシーガ(またはオーソライズドジェネリック※)を使い続けたというわけです。

※補足:ニプロ社からフォシーガのオーソライズド・ジェネリック(AG)も承認取得されていましたが、2025年12月時点では薬価収載・発売が見送られています 。AGであっても適応症はおそらく先発と同一にできるはずですが、発売タイミングの関係か市場にはまだ出回っていません(2026年初現在)。

部分適応の理由1:特許(医療用用途特許)の存在

では、なぜジェネリックは「2型糖尿病」しか適応を有していないのか? その理由は大きく2つ挙げられます。第一の理由は**「特許」**です。

新薬には物質特許(化合物特許)があり、これは有効成分そのものの特許権で通常は出願から20年程度保護されます。さらに製薬企業は新たな効能効果が判明した場合に「医薬用途特許」(いわゆる効能特許)を出願することがあります。今回のフォシーガの場合、心不全やCKDへの効果が確認された際に、それぞれ**「ダパグリフロジンを用いて〇〇を治療する方法」という特許が出願・成立している可能性が高いのです。実際、特許公報データベースには「ダパグリフロジンを用いて駆出率が低下した心不全を治療する方法」**なる発明の出願が確認できます (※AZ社による2019年優先出願の特許申請)。このような用途特許が存続している間は、ジェネリックメーカーがその適応症を標榜すると特許侵害になってしまうため、後発品の添付文書に当該効能効果を記載できないのです。

つまり、フォシーガ先発品が取得した**「慢性心不全治療」や「CKD治療」の権利は依然オリジナルメーカー側に独占されており、ジェネリック各社はそこを避けて製品化する必要があるというわけです。結果として、安全性・有効性のデータ自体は存在していても、後発品は公式には糖尿病にしか使えない薬として市場に出ざるを得ないという構図になります。これは「スキニーラベル」**(skinny label)とも呼ばれる戦略で、特許で守られた適応を“痩身化”して削り落とし、非侵害の範囲だけを記載して発売する方法です。フォシーガ後発品はまさにこのケースに該当します。

なお、フォシーガの場合1型糖尿病の適応もジェネリックでは外されています。1型糖尿病については特許云々よりも安全管理上の理由が大きいと推測されます。SGLT2阻害薬の1型糖尿病適応はリスク管理計画(RMP)の下で慎重に運用されてきましたが、実は欧州ではフォシーガの1型適応は2021年に申請取り下げとなっています(ケトアシドーシスリスク等から)。日本でもRMP期間終了が2025年6月と最近まで継続していた経緯もあり 、ジェネリック各社としては敢えてリスクの高い1型適応に手を出さなかったものと思われます。結果、後発ダパグリフロジン錠の適応はもっとも基本的な「2型糖尿病」だけが残った状況です。

部分適応の理由2:再審査期間(データ保護期間)の壁

第二の理由は**「再審査期間」です。再審査期間とは、新薬承認後に安全性・有効性を確認するための市販後調査期間であり、この期間中は原則としてジェネリックの申請・承認が認められません(いわばデータ保護によるデータ独占期間に相当します)。日本では通常、新有効成分医薬品は8年の再審査期間が与えられますが、新効能・新用量の追加承認にも別途再審査期間(一般に4年**)が付与されることがあります 。

フォシーガの場合を整理すると、

  • 2014年3月の「2型糖尿病」で承認時に8年の再審査期間
  • 2019年3月の「1型糖尿病」追加承認で4年の再審査期間
  • 2020年11月の「慢性心不全」追加承認で4年
  • 2021年8月の「CKD」追加承認で4年

と、それぞれ設定されました 。基本の8年は2022年3月に満了しましたが、心不全適応は2024年11月まで、CKD適応は2025年8月まで再審査期間が残る計算になります。ジェネリック医薬品は先発品の承認評価資料(有効性・安全性データ)を一部利用して簡略審査されますが、再審査期間中のデータ流用はできません。そのためフォシーガのジェネリックも、心不全とCKDのデータには一切触れずに申請せざるを得なかったわけです。審査当局も当然それら適応は認められませんから、結果として後発品はT2DM以外データ未提出=適応なしという形で承認・上市されました。

要するに、フォシーガの追加適応はまだ承認後数年しか経っておらず、データ保護期間の真っ只中だったのです。このタイミングでジェネリックを出そうと思えば、どうしても古い適応(2型糖尿病)の部分だけ切り取るしか方法がありません。以上2つの要因(特許と再審査期間)の合わせ技によって、フォシーガ後発品は“本来あるべき効能”の半分以上を削ぎ落とされた格好となりました。

他のSGLT2阻害薬ではどうなる?フォシーガの際立つ存在感

フォシーガのジェネリック登場に伴う“部分適応問題”は、薬剤師の間でも大いに話題となりました。他の医薬品でも稀に見られる現象とはいえ、ここまで適応の差が大きいケースは珍しいからです。では他のSGLT2阻害薬では同様のことは起きないのでしょうか?少し比較してみます。

代表的なエンパグリフロジン(ジャディアンス)について見てみると、ジャディアンスも当初は2型糖尿病のみの適応でしたが、その後フォシーガに遅れる形で2021年11月にHFrEF(慢性心不全)適応を追加承認、さらに2024年2月にCKD適応も承認され、現在は「2型糖尿病」「慢性心不全*」「慢性腎臓病*」の3適応を有しています (*それぞれフォシーガ同様に「標準的治療施行中」「末期腎不全・透析除外」の注意付き)。こうして見ると、適応の幅自体はフォシーガと大差なくなりつつあることがわかります。実際、心不全についてはジャディアンスの方が左室駆出率に関係なく全ての慢性心不全で使用可能となっており(EMPEROR-Preserved試験結果を踏まえHFpEFにも有効と判断)、フォシーガより広い適応を獲得している点もあります 。

しかしジェネリック医薬品の状況に目を転じると、2026年初現在ジャディアンスにはまだ後発品はありません(初承認が2014年12月なので、再審査期間や基本特許の関係で本格的な後発品参入は2026~2027年頃と予想されます)。仮にジャディアンス後発品が今後登場するとして、フォシーガと同様の問題が生じる可能性は十分考えられます。すなわち、心不全やCKDの用途特許が存在すればそれら適応は記載できず、また追加承認(心不全2021年、CKD2024年)の再審査期間も残存していればデータ利用不可となり、2型糖尿病だけの効能で発売…というシナリオです。実際、ジャディアンスのメーカーも「フォシーガに近い形でCKD適応取得を目指す」とコメントしていた経緯があり 、効能特許や独占期間の管理もフォシーガと類似すると推測されます。

もっとも、エンパグリフロジンの場合は1型糖尿病の適応は取得していません。1型糖尿病領域にSGLT2阻害薬を投入したのは現状フォシーガくらいで、他の薬剤(カナグリフロジンやルセオグリフロジン等)も1型適応はありません。この点はフォシーガが特異な存在でした。結果的にフォシーガ後発品では**欠けた適応が3つ(1型・心不全・CKD)**にも上り、際立ってギャップが大きかったと言えます。

整理すると、フォシーガはSGLT2阻害薬の中でも適応拡大のパイオニアであり、先発品がマルチな活躍をするがゆえに、ジェネリックとの落差も顕著になってしまったわけです。他の薬剤でも似たケースは起こりえますが、フォシーガほど**「糖尿病の薬が心不全・腎臓病まで治せる」**と広く認識されていた薬はなく、そうした意味でも今回の部分適応問題は薬剤師業界に与えたインパクトが大きかったのです。

調剤現場での対応:疑義照会と処方監査への影響

このような状況下、現場の薬剤師は処方せんを前に頭を悩ませることになります。具体的に想像してみましょう。

例えば処方せんに「フォシーガ錠10mg 1日1回 朝食後」とだけ記載されていた場合、患者さんが2型糖尿病なのか心不全なのかCKDなのかは一見わかりません。従来であれば先発品フォシーガしかなかったので特に問題なく調剤していましたが、ジェネリックが発売された以上、薬局としては可能な限り後発品に置換したいところです。しかしその患者さんが糖尿病を合併していない心不全患者さんだったとしたらどうでしょう?ジェネリックの適応外使用(オフラベル使用)を薬局が意図して行う形になりかねません。

日本の保険調剤では、後発品への変更調剤は基本的に奨励されていますが、先発と後発で効能・効果が一致しない場合には慎重な判断が求められます。厚生労働省は2012年の通知で「効能効果に違いがある後発品について、一律にレセプト査定(減点)は行わないよう保険者に周知する」旨を示しています 。これだけ見ると「適応が違っても変更調剤して構わない」ようにも読めますが、その後のフォローアップで厚労省は**「一律に査定しないという意味であって、ケースごとに必要なら査定しうる」との見解も示しており 、決してお墨付きが与えられたわけではありません。「変更調剤による適応外使用」が明白な場合には、審査側(支払基金等)は個別事例に応じて査定し得る**というスタンスです 。

結局のところ、処方医の意図と患者背景を踏まえ、薬剤師の判断で対応を考える必要があるという難しい状況です。現実的な対応策としては、やはり疑義照会が挙げられます。処方箋に適応症(診断名)が明記されていれば判断は容易ですが、通常そこまで書かれませんので 、疑わしい場合は医師に問い合わせて確認するのが安全策でしょう。「この患者さんは糖尿病合併の心不全でしょうか?それとも純粋な心不全でしょうか?」といった具合です。処方医から「糖尿病ない心不全なのでフォシーガ先発でお願いします」と言われれば先発品をそのまま調剤すれば良いですし、「2型糖尿病もあるからジェネリックでOK」と言われれば変更調剤して問題ないでしょう。大事なのは薬局と医療機関で齟齬が生じないようにすることです。適応違いによるレセプト減点が発生した場合、原則その費用は処方医側に請求戻し(査定)となるため 、何も確認せずに薬局判断で勝手にジェネリック変更してしまうと、後々トラブルになる可能性があります 。そういった意味でも**「明らかに適応違いと分かる場合」の変更調剤は避けるのが無難**、というのが実践的な見解です 。

また、患者さんへの説明という観点でも注意が必要です。フォシーガは有名な薬ですから、患者さん自身が「これ糖尿病の薬って聞いてたけど、私は心臓が悪いだけで糖尿病じゃないのにな…?」と疑問に思うケースも考えられます。先発品をお渡しする場合は当然適応通りですから問題ありませんが、ジェネリックに変更する際には**「このお薬は本来糖尿病のお薬ですが、最近の研究で心臓や腎臓にも良い効果があると分かり、先生もそのつもりで処方されています」といった丁寧な説明を付け加えると安心でしょう。ただし言い方には細心の注意が必要で、決して「このジェネリック、本当は心不全の効能ないんですよ(笑)」などと不用意に伝えるのはNGです。患者さんを不安にさせてはいけませんし、薬機法的にも医薬品の適正使用を損なう発言は避けるべきです。あくまで医師の裁量で承認外の使い方をしている**こと、その判断にはエビデンスがあることを簡潔に説明する程度に留めましょう。

最後に、調剤報酬上の観点で補足します。後発品への変更調剤を行うことで薬局の後発品調剤体制加算などの数値に影響するため、薬局としてはできれば変更したいところですが、適応外使用となるケースで無理に変更し続けるとシェア目標達成に逆効果となる場合もあります 。疑義照会の手間や医師との信頼関係も考慮しつつ、症例ごとに柔軟に対応することが求められます。薬剤師の腕の見せ所とも言えますね。

おわりに

フォシーガのジェネリックが**「2型糖尿病のみ適応」という部分的な形で発売された背景には、エビデンスに基づく適応拡大の歴史と知的財産・制度上の壁**が複雑に絡んでいました。薬そのものは同じでも、書類上の違いで使える病気が制限される――一見すると不合理にも思えますが、新たな治療効果を開発・発見した企業の権利を守りつつジェネリック普及による医療費削減も図るための現行制度の現実と言えるでしょう。

調剤の現場では、私たち薬剤師がその狭間で適切な判断を求められます。本記事で整理したように、フォシーガの場合は先発品と後発品で適応症に大きな差があるため、処方監査や疑義照会にこれまで以上の注意が必要です。「適応外だから絶対ジェネリックNG」と硬直的になる必要はありませんが、患者背景と医師の意図を汲み取りつつ、安全かつ円滑に薬物治療を進めるサポートをするのがプロとしての務めでしょう。

幸い、厚労省も機械的なレセプト査定はしない方針を示していますし 、エビデンス的にもフォシーガ=ダパグリフロジンは糖尿病のみならず心不全・腎臓病にも有用なことは明白です 。今後、他のSGLT2阻害薬でも同様のケースが出てくる可能性がありますが、本質的なポイントは同じです。「薬の効き目」と「承認上の適応」が必ずしも一致しない場合にどう対処するか——薬剤師として知識と判断力が問われる場面ですが、本記事の内容がその一助になれば幸いです。

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ヤクマニ01

薬剤師。ヤクマニドットコム編集長。
横一列でしか語られない薬の一覧に、それぞれのストーリーを見つけ出します。
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noteで編集後記も書いてるよ。

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※本記事は薬学生および薬剤師など、医療関係者を対象とした教育・学術目的の情報提供です。医薬品の販売促進を目的としたものではありません。
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